味な人生、おいしい話。

      2016/12/19

松本 廣治

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■ 毎日の“美味しい”のそばに

%e3%82%bf%e3%82%b1%e3%83%80%e8%96%ac%e5%93%81%e5%b7%a5%e6%a5%ad%e5%a4%a7%e9%98%aa%e5%b7%a5%e5%a0%b4 九州大学農学部食糧化学工学科を卒業後、昭和44年4月に武田薬品工業株式会社入社、2カ月間の新入社員教育を経て、研究開発本部食品研究所に配属されました。
 武田薬品は医薬の会社なのに、食品もやっていたのかと思われる方も多いと思いますので、まず、武田薬品の食品について紹介します。家庭用食品、加工食品メーカーおよび外食産業向けの食品添加物・素材がありました。現在は、武田薬品の食品部門と協和発酵の食品部門を吸収合併したキリンビールの子会社MCフードスペシャリティーズ株式会社の商品になっています。但し、飲料および強化米はハウスウェルネスフーズ株式会社の商品になっています。

 家庭用食品には下記のような商品があり、買って頂いた方もおられると思いますので、少し詳しく紹介します。

 

うま味調味料「いの一番」

%e3%81%84%e3%81%ae%e4%b8%80%e7%95%aa 「いの一番」は、鰹節、肉、煮干しのうま味成分である5’-イノシン酸二ナトリウム(IMP)、椎茸のうま味成分である5’-グアニル酸二ナトリウム(GMP)、昆布のうま味成分であるL-グルタミン酸ナトリウム(MSG)という、日本の伝統的な「だし」成分を一つにした複合調味料です。(IMP4%+GMP4%+MSG92%) 三つのうま味成分が相乗効果を発揮し、食品に深い味わいを与えて風味をアップ。1961年の発売以来、半世紀以上にわたって愛され受けつがれている食卓のロングセラー商品です。

 

風味調味料「だし本番」シリーズ

%e3%81%a0%e3%81%97%e6%9c%ac%e7%95%aa「だし本番」は鰹、昆布などの風味原料に各種調味料を合せた、風味調味料のシリーズです。

 

 清涼飲料水「プラッシー オレンジ」

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ビタミン強化米「ポリライス」・「新玄」

%e3%83%9d%e3%83%aa%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%82%b9%e6%96%b0%e7%8e%84 強化米「ポリライス」(ビタミンB1強化)につづき、「新玄」(玄米の栄養素:ビタミンB1・B2・B6・E、ニコチン酸、パントテン酸、鉄、カルシウム強化)が開発されました。

 

加工食品向け食品添加物・素材

 多くの加工食品に使われる商品があります。具体的には調味料類、食品素材、強化剤、保存料、酸化防止剤、品質改良剤、甘味料、酸味料・pH調整剤類、増粘安定剤、酒造薬品、活性炭、ろ過助剤などがあります。

 

外食産業向け食品添加物・素材

 うま味調味料、風味調味料、液体調味料、醗酵調味液、炊飯用改良剤、卵加工品、品質改良剤などがあります。

 

■情熱を注いだ――私の食品開発アーカイブ

 ここからは、私が担当した仕事を、入社してからの時系列に沿って紹介します。
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1. 飲料
■リンゴ果汁20%配合で天然色素を使用した清涼飲料水(商品名 マリンカ)
■ブドウ果汁20%配合で天然色素を使用した清涼飲料水(商品名 プラッシーグレープ)
%e3%81%b6%e3%81%a9%e3%81%86%e3%82%b8%e3%83%a5%e3%83%bc%e3%82%b9 二品とも他社と差別化するためにビタミンCおよび果汁配合で天然色素を使用しました。これらの検討では、業者から入手した多くの果汁、色素、香料から良いものを選ぶために、清涼飲料水を実際に作り、飲んで決めます。砂糖が入っているために、決めるまでに毎日作っては飲みの連続で体重が4年間で58kg→63kgになりました。二品とも商品化しました。

2. デザート
■インスタントプリン
 他社との差別化のために、卵で作ったプリンの弾力とほぼ同じになるように、ゲル化剤のカラギーナンを主体に寒天、ゼラチンなどの配合検討を行いましたが、課題をクリアできず断念しました。

3. 加工食品向け食品添加物
■冷凍すり身用品質改良剤
 かまぼこの原料である冷凍すり身の貯蔵中のたんぱく質の変性を抑えて、変色を防止して、アシと呼ばれる弾力のある食感を維持して、白いかまぼこを作れるような商品を、乳化剤のグリセリン酸脂肪酸エスエル、プロピレングリコール脂肪酸エステルと重合%e3%82%8a%e3%82%85%e3%81%86%e3%81%b2%e3%82%87%e3%81%86%ef%bc%92リン酸塩、D-ソルビトールなどで配合検討しましたが、他社品に比べて、効果ある商品を開発できませんでした。
 添加実験で網走の冷凍すり身工場に数回行きました。1月中旬に行った時に網走港の流氷の上を歩きました。
■品質保持剤(グリシン製剤)
 保存料(ソルビン酸またはソルビン酸K)の表示を嫌う食品加工メーカー向けに、抗菌効果があるグリシン、酢酸ナトリウム、中鎖グリセリン脂肪酸エスエルなどで配合検討を行いましたが、保存効果が短く、商品化はできませんでした。
■品質保持剤(エタノール製剤)
 食品に練りこみ、噴霧、浸漬および調理器具(容器、包丁、まな板、食器など)、加工器械類(ミキサー、カッター、コンベアなど)に噴霧するタイプで、エタノール、中鎖グリセリン脂肪酸エスエル、グリシン、乳酸などで配合検討を行いましたが、これも保存効果が短く、商品化はできませんでした。

4. 新規食品添加物・素材
■納豆粘質物
 ムチン、ポリグルタミン酸が主成分である納豆粘質物の食品中での機能を検討しましたが、有用な効果を探すことができませんでした。
■非熱凝固卵白
 卵白を高温高圧したら、加熱しても固まらなくなります。実験室と同じ品質%e3%82%b7%e3%83%a3%e3%83%b3%e3%83%97%e3%83%bc%e3%83%aa%e3%83%b3%e3%82%b9%ef%bc%92のものを、工場設備での製造法を確立しました。商品化が急がされていたので、2カ月間ほど、今話題になっている過労働(終電に乗れずにタクシー帰宅が度々でした。)しました。化粧品メーカー1社のシャンプー、リンスに採用になりましたが、他には採用されませんでした。
■高甘味度甘味料
 アセスルファムカリウム、アスパルテーム、スクラロースの甘味質の性質および食品への利用を検討しました。アセスルファムカリウムは砂糖に比べて、甘味度は約200倍、早く甘味を感じ、苦い後味があります。アスパルテームの甘味度は約200倍、やや遅く甘味を感じ、甘味の後味があります。スクラロースの甘味度は約600倍、砂糖に近い甘味質です。スーパーなどで砂糖および缶コーヒー売り場を覗いて下さい。ノンカロリー、低カロリーの表示がある商品には、これら甘味料の表示がされています。
■ハイリボコート%e3%82%ab%e3%83%9e%e3%83%9c%e3%82%b3
 リボタイドは、生の食品原料に添加されるとフォスファターゼ(リン酸エステル分解酵素)で分解されて、うま味を感じなくなります。それで硬化油でリボタイドをコーティングした商品の製造法を検討しました。かまぼこ、ハンバーグ、ソーセージを製造する時に、生の魚、肉にこの製品を添加して、加熱処理すると硬化油が溶融し、リボタイドが溶けて、うま味を発揮します。
■ラクチトール
 乳糖を還元した低カロリーの甘味料です。菓子メーカーなどに紹介に行き、博多では石村萬盛堂、如水堂、明月堂に行きましたが、採用されませんでした。

5. 外食産業向け食品添加物・素材
■炊飯用改良剤%e3%81%bb%e3%81%8b%e3%81%bb%e3%81%8b%e3%81%94%e9%a3%af%ef%bc%92
 アミラーゼ(澱粉のグルコシド結合を切る酵素)、ショ糖脂肪酸エステル、炭酸カルシウムなどで配合検討して、炊飯用の改良剤を商品化しました。ふっくら炊き上がり、炊き増えし、釜ばなれ、しゃもじばなれが良く、ご飯が冷えてもパサパサせずおいしさが持続します。
■砂糖代替甘味料
 アセスルファムカリウム、アスパルテームおよびエリスリトール(カロリーゼロの糖類で賦形剤として使用)でノンカロリーのテーブルシュガーを組成・顆粒化を検討し、商品化しました。

 外食産業向け食品添加物・素材を担当していた時に、山菜水煮(山形)、味つけ油揚げ(大阪、福岡)、たけのこ水煮(高知)、味付け椎茸(大分)、乾燥わかめ・ひじき(韓国)の工場に行き、製造・品質管理の調査を行いました。

6. 加工食品向け調味料
■食塩代替品
 塩化カリウムなど塩味を感じる食品添加物で食塩の代わりになる調味料を検討しましたが、出来ませんでした。料理を作る時に、うま味、こく味を強くしたら、食塩を使わなくても、食べることができることがわかりました。ナトリウム摂取を制限されて居られる方には常識ですね。
■酵母エキス
 食品にうま味、こく味を付与するパン酵母エキスが4商品ありましたが、ビール酵母からの酵母エキスの開発に協力し、品揃えしました。
■魚醤
 タイから魚醤を輸入して、仕立て直しおよび粉末化を行い、エスニック・中華料理に合う調味料を商品化しました。

■ちょっと苦手な欧州出張

 加工食品向け調味料を担当していた時に、営業と同行販売、特約店・問屋での説明・勉強会、食品展のブースでの説明とセミナーでの講師などを行い、営業活動に協力しました。英会話が不得手だったので、海外(欧州、中国、フィリピン)でのセミナー講師および顧客とのディナーが苦手でした。

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01-04-iftec%e4%bc%9a%e5%a0%b4congress-center1992年11月14日~19日 オランダ出張

【写真】 上左:アムステルダムの街並み 上右:オランダを25分の1に縮小したテーマパーク「マドローダム」にて 下左:IFTEC展示ブースにて(左が松本さん) 下右:IFTEC会場 Congress Center

 52歳の時に、工場の品質管理部に異動して約5年間勤め、お客さまに安心安全な商品をお届けする苦労を経験しました。その後約2年間食品研究所に戻り、さらに商品企画部に異動して約1年間勤め、新製品候補および営業戦略の提案をしました。これでサラリーマン人生を終了しました。

◆参考資料:辛子めんたいで使用される食品添加物

使用目的と効果

食品添加物

食品添加物表示例

うま味をつけ、おいしい味にする

L-グルタミン酸ナトリウム

 リボタイド

調味料(アミノ酸等)

味のバランスを整えるとともにタラ子の身をひきしめ、食感をよくする

DL-リンゴ酸ナトリウム

調味料(有機酸)

酸化により有害物質ができたり、風味が悪くなるのを防止し、タラ子の色を保つ

L-アルコルビン酸ナトリウム

酸化防止剤(ビタミンC)

タラ子の色を固定し、風味を向上させ、保存性を高める

亜硝酸ナトリウム

発色剤(亜硝酸Na)

亜硝酸による発色機構を補強し、色調、味、香りを保持する

ニコチン酸アミド

ニコチン酸アミド

保湿性を高め、食感をよくする

D-ソルビトール

ソルビトール

タラ子の結着性と保水性を高め、食感をよくする

ポリリン酸ナトリウム 

メタリン酸カリウム

リン酸塩(Na, K)

タラ子を着色し、食欲をそそる

食用赤色102号

着色料(赤102)

 

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