寿禄短歌の会 市丸幸子(8)◎立冬の候

      2024/02/06

 
 短歌づくりで悩むこと…言葉選びもそうですが、まず何を題材に詠めばよいかを決めることが問題です。その解決策として、今回は一年十二カ月をテーマに歌づくりをしてみることにしました。月を入れた分字余りの歌が沢山できてしまいましたが、今回は大目に見よう(自分で自分を^^)と思います。

 
【一月】

 
【二月】

 神戸の新開地で行われた浅川マキのライブに行った時のことを思い出して詠んだ歌です。同じ講義を受講していた数人のグループで行ったのですが、いつの間にか皆とはぐれて二人きりになって…。浅川マキの気だるさも、新開地のアングラ加減も、何もかもが驚きの大人への階段でした。

 
【三月】

 「うん、これは働く手だね」と、飾り気のない私の手を取って褒めてくれたのは、後にも先にも彼だけでした。「そこ? ほかに褒めるところはないの?」と思いながらも嬉しく、その言葉の力に導かれて"働く"人生を歩むことになったのは不思議です。

 
【四月】

 どこに行くつもりだったのか、そのツーリングがどんな顛末になったのか、細かいことは覚えていません。

 
【五月】

 「笹鳴り」とは、竹林の笹の葉が、風に吹かれてさやさやと揺れる葉ずれの音を言います。

 
【六月】

 紫陽花寺として有名な京都・宇治市の三室戸寺を訪れた時のことでした。六月は私の誕生月だったのですが、貧乏(学生)だった彼はプレゼントを買うゆとりもなく…。それは風に吹かれて空耳かと思う、涙が出そうなほど嬉しい言葉でした。

 
【七月】

 これは社会人になって、ずいぶん時が経ったあとのことです。思いがけなく留守電にメッセージが残されていることがありました。電話を返すことはしなかったものの、その録音テープをいつまでも消せずにいたのは何故だったのでしょうか。

 
【八月】

 ジャズに夢中だった彼が好きだったのは、オペラ・ポギーとべスの劇中歌「サマータイム」。綿花が高く育つ夏の日を歌った子守歌の歌詞は美しく哀感があり、その一節を彼はいつも口ずさんでいました。

 
【九月】

 2回生と3回生の2年間、数人の女子大生で一軒の町家をシェアして下宿していたのですが…。夏休みに故郷に帰省して、九月に下宿に戻ってきた女子学生たちが、ひと夏で別人のように変貌するようすは驚くばかりでした。何か嬉しいことがあったらしいことは、同性から見ればすぐに分かることでした(笑)。

 
【十月】

 就寝中に時おり耳にする遠雷の音が、彼が乗っていたバイクのエンジン音に似ていて、もしやと胸騒ぎがしたものでした。
※枕を濡らしたというのは、ちょっと盛っています、演出です(笑)。

 
【十一月】

 東北旅行で、旧会津藩の白虎隊十九士の墓にお参りしたときのこと。19人の中に津田捨蔵(享年16)の名前を見つけ、胸がつぶれるような気持ちになりました。
 「捨」の文字を名前に付けたのは、乳児の病死率が高かった時代、わが子の健やかな成長を願った親の愛だったそうです。この時の思いを俳句で表現しようとして叶わず、ようやく短歌で表現することができました。

 
【十二月】

 ベートーヴェンの交響曲第九番~歓喜の歌(合唱)~、詩人シラーの「歓喜に寄す」のドイツ語の訳詩を知った時は、身がふるえるほどの感動でした。その日本語訳の一部は下の通り

歓び、それは美しい神の火花、それは楽園の乙女
私たちは、神の火花に魅惑され、
入って行く天の高み、あなたの聖なる神殿へ!

 解説によると、折しもヨーロッパはフランス革命の時代。長く宮廷の権力に抑圧されていた庶民たちが、次第に手をつなぎ立ち上がっていく…。「歓喜に寄す」は、そんな新しい時代の夜明けを告げる鐘の音になったとのことです。

 

 

 

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