体感温度は±2℃以上、照明の色温度が、空調機器の省エネに果たす驚きの効果

      2024/02/06

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 2016年9月末から3年余、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)リサーチコンプレックス事業の一環として、けいはんな学研都市メタコンフォート・ラボで行われていた《空調温度と照明色温度のシナジー効果を最大限に発揮させた空調・照明連動制御》の実証実験(知的オフィス環境推進協議会:同志社大学/木村工機株式会社)が完了、文科省主催の「異分野融合研究コンペ」に提案して入賞し、その論文をもとに具体的な事業化が進められています。

 この木村工機(株)の最高顧問として当研究に携わっているのが住田章夫さんです。下にその論文を掲載していますので、興味を持たれた方はお読みになってください。

※寿禄会HP編集部

 
1. 研究の狙い

 室温と照明の色との相互作用は「HUE-HEAT 効果」として多くの研究成果があるが、「快適性と省エネを基に空調と照明を連動制御する」方法はあまり見ない。本研究では、空調の重要なファクターである「室内温度と相対湿度」の制御のみならず、「照明の色温度」を変えることで、オフィスの執務者に心理的影響を与え、「照明と空調のシナジー効果」で、SDGをめざした省エネと人の快適性を両立させる新たな「空調・照明連動 制御」システムを確立したい。オフィスに導入可能な調光調色型LED照明と温湿度制御空調設備を揃えた二つの同等実験室を用い、被験者を照明・空調環境のパラメータのうち一つだけを変化させた実験室に移動させ、室温と色温度の透過性を体感させることで、より効果的な連動制御方法を求める。

 そもそも空調は 4500 年前、古代エジプトに代表されるように、素焼きの水甕から滲み出る水滴の蒸発作用から奴隷が棕櫚の葉でファラオに冷風を送ったことを起源としているが、その気化熱利用の「デザート(砂漠)クーラー」は現在に至るまで熱媒体を再生利用可能な冷媒に切り替えた以外には、基本原理に変化はない。

 そこに人口増加、経済成長とエネルギー多消費、地球環境問題の顕在化に加え、大震災による原発事故のような予測不能な事態で電力エネルギー危機を迎えている今日、本来最優先すべき「快適性」を抑えてでも、単に冷暖房設定温度を変えてエネルギー消費量を下げようという「クールビズ」なる社会システムが浮上してきた。

 我が国では「26℃相対湿度 50%」を快適冷房設計基準としているが、「照明」の「色温度」を変化させ、照明環境を空調環境と統合的に運用することで、ビルの空調に関して新たな省エネルギー効果を生み出せることが期待できる。これは、人の「快適性」を基準とする空調であり、従来の室温万能主義から脱却できる可能性がある。はたまた、ビルオーナーにとっても、ビルのテナントにとっても、また社会全体にとってもサステイナブル(持続可能性)な方法である。

 つまり、次世代の空調を目指し、照明の色温度で人の体感温度を変えることと、空調の温度と湿度の連携制御 を行うことで、従来の空調より省エネルギー効果を得ることができるなら、新時代の快適・省エネ空調として商品化でき、企業の価値を上げると共に、社会への普及を目指し、日本のオフィスの省エネルギーと快適性の両立に貢献できる。

 
2.期待される事業化の可能性

 2018 年 5 月 11 日、官邸会議で環境副大臣が「クールビズの 28℃は不快である」と発言、それを受けて法務副大臣は「28℃は何となくスタートしたので、ここで働きやすさの観点から見直ししたい」と提案。元はと言えば、この《クールビズ》は 2005 年、小泉内閣時代、小池百合子環境大臣により「夏場の軽装による冷房の節約」をキャッチフレーズとしてスタートし、それに倣い、国際連合も「クール UN」として追随したが、2011 年、福島原発事故による電力危機に際して、新たに《スーパークールビズ》として服装以外に「室内冷房温度 28℃、暖房温度 20℃」を設定し、官公庁には即日、管理指導を開始した経緯がある。

 空調では快適冷房条件としての「室温 26℃相対湿度 50%」は「室温 28℃相対湿度 40%」と快適感は同じである。つまり温度・湿度・気流の相関関係での「快適体感帯」が存在する。湿度を変えずに温度だけを上げれば、途端に「不快指数」域に入る。つまり湿度が高いと、汗の蒸発が阻害され、蒸し暑い不快感となるのである。
 それを我慢させ、以後長い間、官公庁職員はもとより民間企業に至るまで不自由を強いてきた。その結果、今回の副大臣発言となった。ならばそれに代わる《省エネ・快適性追求》の手段を探すべきであろう。今こそ蛍光灯の半分の消費電力で済む「LED 照明」の普及を生かさぬ手はない。

 実は 1972 年、米国 HumanFactors 誌でベネット、レイ両教授より「Whats so hot about Red?」が発表され、所謂「HUE-HEAT 効果」が登場した。これは色合い(Hue) が温冷感(Heat)に影響を与えるという理論であるが、実際に暖色の電球色から寒色LEDの部屋に移すと、人は連涼感を感じ、逆では温暖感を感じる。

 
具体的な事例は次の通りである

《 事例1》東北電力/松下電器産業「温冷感と光源の光色との関係」(H4 年照明学会)

電球色と昼光色の蛍光ランプを使って温熱感覚に対する照明光の光色効果を検証すると、人間の温熱感覚に約 1℃の差が確認できた。(被験者 20 名)
昼光色 5000K の部屋から、隣室に移し、電球色 2900K・白色 4200K・昼白色 5000K・昼光色6700Kの 4 段階照明切替に対し、暑い・寒いの温熱感覚は 20 分以上持続した。(被験者 28 名)

《 事例2 》東北電力/松下電器産業「温冷感と光源の光色との関係」(H4 年照明学会)

夏季に、暖色 3000K の元に 30 分居て、寒色 6700K に変えると 3 分間は 2℃下がった感覚があり、30 分後は温度低下 0.2℃の差まで戻った。冬季においてもその逆の色温度で同様の結果が得られた。(被験者 3 名)

《 事例3 》千葉大「生理機能に及ぼす気温と照明の色温度・照度の複合影響」(H14 年人間生活工学修論)

25℃、相対湿度50%の部屋で30 分間、暖色3000K に慣らし、寒色6000K の下で直腸温度を計測すると、0.15℃低下。自律神経系に影響を及ぼし、体感温度も下がった感覚が持続。この実験室で低温環境時の低色温度光源の使用、高温環境時の高色温度光源の使用は人体の生理機能に有利に働かせることを確認。(被験者 7 名)

 以上より、色温度が交感神経活動を活性化することが判り、それも少なくとも 20~30 分間の持続を各研究機関とも確認。そこでこれに壁面照明など空間意匠に工夫を加えれば 60 分以上の持続も有り得るので、この空調 温度と色温度のシナジー効果は夏期・冬期の朝の空調機器の立ち上がりの事前運転、また昼下がりの非定常ピーク対応運転に振り向ければ、かなりの省エネが期待できると考えた。

 
3.実証実験結果の概要

 けいはんな MC ラボ実験室は両室とも 5400x5500xH2800mm。

実験室 A:例 26℃、RH50%、低色温度 3000K。実験室 B:28℃、RH50%、高色温度 5500K

■2017 年 8/11~9/5 冷房実験:被験者(男性 88+女性 76=164 名)
①室温が同じ 27℃で高色温度と低色温度で実験すると、高色温度の方が涼しく感じる。
②片方の部屋の室温を 1℃下げて 26℃にしても、差は縮まるが、高色温度の方が涼しい。
③更に 25℃と 2℃差にしても、同レベルの涼しさを感じ、決して暑くはない。
④2℃差での時間経過では25℃が[涼]だが、10 分後には同等、20 分後は高色温度での 27℃の方が[涼]。
⑤27℃/26℃の 1℃差で 60 分経過状況を見ると、高色温度での 27℃の方が[涼]感を持続した。

■2018 年 7/27~9/16 冷房実験: 被験者(男性 100+女性 115=215 名)
①高色温度での 28℃(クールビズ設定温度)/低色温度での 27℃という 1℃差ならば逆転効果あり。
②しかし低色温度での26℃との2℃差、つまり「クールビズ」に挑戦するも湿度制御に失敗し持ち越し。
③27℃の部屋で「水色の壁面照明」すると 25℃と同等の「冷」評価。「色度」での効果も発見した。
④25℃では当初[涼]だが、27℃高色温度の部屋に移り40分を超えると[涼]に収斂し、90分持続した。

■2018 年 1/5~2/12 暖房実験:被験者(男性 69+女性 60=129 名)
①同じ24℃の場合、低色温度の方が[暖]だったが、それは照度を変えてみても体感に差はなかった。
②高色温度での24℃/低色温度での 23℃の 1℃差でも、低色温度の方が[暖]。照度の影響は殆ど無い。
③高色温度での 24℃/低色温度での 22℃の 2℃差でも差は縮まるが、まだ低色温度の方が「暖」。
④低照度下で湿度 40%/50%を比べると、低色温度のみ 50%の方が「暖」感を感じた。

■2018 年 12/2~2019 年 2/4 暖房実験:被験者(男性 139+女性 135=274 名)
①24℃での0℃、1℃、2℃差は前年通り低色温度が「暖」であったが、3℃差での逆転はなかった。
②高色温度での 22℃/低色温度での 20℃の 2℃差は同等評価であり、ウオームビズは色温度でクリアした。
③23℃の部屋で「橙色の壁面照明」すると24℃と同等の「暖」評価。しかし 22℃では追い付かず。
④24℃5500K 室から 22℃3000K 室に移ると、最初は「涼」だが「暖」になり 90 分持続した。

■2019 年 8/19~23 冷房実験:被験者(男性 20+女性 26=54 名)
2 年間の実験における補足あるいは再確認のために追加実験を行った。
①25℃~27℃の2℃差では高色温度にすると涼暖感が逆転し、湿度を下げると更に効果大であった。
②26℃~28℃の 2℃差でも同様の結果でクールビズを色温度でクリア。
③前項の昨年度の実験は湿度を成行きにしていた為、26℃49%3000K/28℃56%5500K の比較となってしまったので、今夏は26℃50%/28℃50%を設定した処、しっかりクールビズをクリアした。
④一般ビルの 4000K で 25℃~27℃を 5500K+空色壁面にすると 2℃差は接近し、湿度を下げると逆転した。

 
●まとめ 実験期間:2017~2019 年の 3年間に亙る 11ヶ月。被験者:延べ 836 名。

① 同じ室温の場合、高色温度 5500K は「涼」、低色温度 3000K は「暖」を体感する。
② クールビズ(28℃)、ウオームビズ(20℃)とも色温度での対応で設計基準(冷房 26℃、暖房 22℃)の快適性を維持することを確認。
③ 一般ビルでは 4000K 以上が採用されており、「色温度+水色壁面照明」で 25℃→27℃での「涼」維持が確認 できたが、快適性からは湿度制御を加えるのが更に効果的。
④ 冷房 25℃→27℃、暖房 24℃→22℃の 2℃差は色温度で 90 分近く「涼暖感」維持できること確認。これは今回実験での最大の成果となった。つまり 4 億円もの開発費で、4 大学の叡智の下、3 年間、延べ 836 名もの被験者により大掛かりな実証実験。従来の学説「約 30 分間の持続」の 3 倍もの長時間持続性を確認出来た。
⑤ 湿度制御では暖房時、低照度において低色温度は湿度 40%より 50%の方が暖かく感じること確認。

 
●年間消費電力量試算

 本来ならば、時刻毎の設定温度変更、日中の気温変動の影響などが絡むので、国交省が推奨する年間熱負荷計算や、専門的シミュレーション(LCEM、BEST 等)が必要であるが、設定すべき条件が整わないので、取敢えずピーク負荷に対しての運転パターンや運転負荷率を想定した簡易計算を試みる。
※環境省データ『温暖化対策における削減量の根拠』より、クールビズ削減率▲6.8%、ウォ―ムビズ▲13.8%を確認しこれにより年間省エネ▲10%と定める。
《試算条件》15000m2 事務所ビル(東京) 空調面積 12300m2

年間運転時間 3374hr (夏期、冬期、中間期ともに 4 か月)、12Hr /日運転

 上表のように国交省「建築設備設計基準」に対し、「クールビズ・ウオームビズ」は年間▲10%の省エネになり、省エネに寄与することはできるが、国民には些か不快感を強いている。
 そこを色温度 3000K/6000K 切替と連動させる照明制御を工夫すれば、「HUE-HEAT 効果」が得られ、快適性を維持しながら▲7%の省エネが可能である。
加えて、更なる快適性を追求するために湿度制御を取り入れた「HUE-HEAT 空調システム」では省エネ率は▲ 5%と若干、低くはなるが、≪理想的な快適性≫を実現する。

●よくある質問:「HUE-HEAT空調システム」とは一言で言えば何ですか?

 ➡例えば、年間空調維持費 1400 万円のビルオーナーが「クールビズ・ウオームビズ」空調をすると年間で▲140万円節約できますが、若干の不快感が残ります。然しながら「HUE-HEAT 効果」を取り入れると▲100 万円の節約を得ながら快適性が確保されます。更に湿度制御を加えると《理想的な快適性》を実現するとともに、まだ▲70万円の節約も可能という空調システムとなり、その商品化が待たれています。

 2017 年 4 月より施行された「建築物省エネ法」は従来の届出制を廃し、厳しく省エネ基準の適合を義務化し、 2019 年には対象建築物を現在の 2000m2 以上を、一挙に 300m2 以上にまで底辺拡大し、2022 年には住宅も含む全ての建物に適用することが閣議決定され、2025 年から実施される。一方、「ZEB」も 2030 年までに新築平均で、 2050 年までにはストックで ZEB 化することになった。この変革は世界レベルでの地球温暖化防止にも繋がる不可避のテーマである。
 顧みてこの 100 年、空調は依然、フロン冷媒に頼っており、50 年前には今日の地球問題を予見していたか の如き《HUE-HEAT 理論》が発表されているにも拘らず、日本はおろか、どの国のメーカーも商品化していない現状に改めて驚く反面、今こそ我が国はこの技術を率先して活用すべき《省エネ性・快適性追求の格好のテーマ》と考える。

完(2022-6-8 改 住田記)  

 

 

 

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