ボヘミアの古都プラハ・ベルリンとドナウ旅情(8・完)
2022/11/02
旅の8日目、5月28日。今日も快晴。モーニングコールも肉声。イチローが20試合連続ヒット。4打数2安打で打率0.339。松岡農水相意識不明の重態との続報。
6時50分レストランへ。今回の旅行で最も豪華な朝食。果物も豊富。周りの人たちも人品卑しからず、服装も富裕な感じ。満足して部屋に戻ると、松岡氏死亡のニュース。
8時半ホテルを出発。9時前から1時間のドナウ川遊覧クルーズを楽しむ。国会議事堂が河畔に華麗な姿を見せている。建国100年に向け1884年に着工し、1904年完成。長さ286m、最大幅123mの巨大な建物。
マーチャーシュ教会、漁夫の砦、宿泊しているヒルトン・ブダペストホテルが目の前に。
やがて王宮と「くさり橋」が見えてくる。
四頭の大きなライオン像がたもとに座る「くさり橋」は、ドナウ川に架かる最初の堅固な橋として19世紀に架けられた。夜間のライトアップのための電球が鎖のように見えることからセーチェニくさり橋と呼ばれている。
セーチェニとは、19世紀前半、ハンガリーの発展に大きく貢献したセーチェニ伯爵のこと。イギリスから2人の建築家を連れてきて、私財を投じて橋の建設にとりかかった。
長さ375m、幅16mの橋は、中央にある48mの石のアーチと鉄によって支えられ、建設には1839年から10年を要している。第二次世界大戦で爆破されたが、戦後に再建。今日なおドナウ川に架かる最も美しい橋と称えられている。
くさり橋:スライドショー(横5枚)
ドナウ川の右岸ブダ側に位置する小高い丘が王宮の丘。標高167m、長さ1.5km、幅300m。ドナウ川に沿って南北に続いている。全体がほぼ完全に近い形で城壁に囲まれ、世界遺産に登録されている。とくに王宮の南側は幾重にも防護壁が施され、堡塁も残っている。
ブダの丘に現在の王宮の基礎となる城が建てられたのは、13世紀半ば。それまでドナウベントのエステルゴムにあった木造の城がモンゴル軍の襲来によって破壊されたため、築城に最適なブダの丘を選んで石造りの堅固な城を建て、宮廷を移した。
15世紀のマーチャーシュ王の時代に城は華麗なルネサンス様式に建てかえられ、中世ハンガリー文化が開花。その後16世紀のオスマントルコによる占拠、17世紀のハプスブルク家による支配、20世紀の2つの戦争によって城はその都度破壊と修復を繰り返し、1950年に新古典様式の今日の姿になった。王宮の歴史はまさにハンガリーの歴史そのもの。
王宮と王宮の丘:スライドショー(横3枚)
◆クルーズ船内
10時、英雄広場へ。ハンガリー建国1000年を記念して1896年に造られた大きな広場。
英雄広場:スライドショー(横3枚)
中央の36mのポール上には大天使ガブリエルが立ち、ポールの足元にはマジャル族の隊長アールパードや他の部族長の騎馬像が立ち並ぶ。
◆左)高さ36mの建国1000年記念碑、ポール上には大天使ガブリエル像が立つ。右)足元にはマジャル族の首長アールバートを中心に、左右3人ずつ部族長の騎馬像が並んでいる。
建国記念碑の両脇に、半円を描く大列柱の間にはイシュトバーンやマーチャーシュ王など歴史に残る国王たち、ハンガリー独立や自由のために戦ったラーコーツィやコシュートなど近代指導者たち14人の像が立ち並ぶ。左端に立つのが聖イシュトバーン像。手にしている二重の十字架は、国王でありながら熱心に布教も行ったため、政治と宗教の二つを象徴している。 15分で見て回る。
◆大列柱の間には歴代国王や近代指導者14人の像が並ぶ
10時半、聖イシュトバーン大聖堂へ。ブダペストを代表するネオルネサンス様式の大聖堂で、正面両側に80mの塔を従えている。本堂中央のドームはそれより高い96mで、ハンガリー建国896年の数字に合わせて造られた。
聖イシュトバーン大聖堂内部:スライドショー(横6枚)
堂内には、初代ハンガリー国王でキリスト教の布教に努めて聖人に列せられた聖イシュトバーン像が祀られている。祭壇の裏手には聖イシュトバーンの右手が納められた黄金のミニチュア教会がある。
11時、近くの民芸品店へ。刺繍製品が素晴らしく、皆土産にたくさん買い込んでいる。 12時20分、レストランへ。グヤーシュスープ(牛肉のスープ、パプリカ)が思いのほかいい味。メインは魚料理。大ビール600フォリント(430円)、アプリコットジュース 500フォリント(360円)。
◆左) 民芸品店の刺繍、右上) グヤーシュスープ(牛肉のスープ、パプリカ)、右下) メインの魚料理
1時50分、王宮の丘へ。漁夫の砦の下に位置し、泊っているホテルのすぐ近くである。
マーチャーシュ教会に入る。入場料650フォリント(470円)。
13世紀半ばに建てられたロマネスク様式の教会。14世紀にゴシック様式となり、15世紀マーチャーシュ王の時代に80mの塔が建設されてほぼ今日の姿となる。黄金に輝く主祭壇や左側の礼拝堂も見事だが、柱から壁、天井にいたる細かな模様は例えようもなく美しい。
マーチャーシュ教会内部:スライドショー(横8枚、縦1枚)
2階に上り、左に傾いた十字架を戴くハンガリーの王冠を見る。キリスト教に改宗して新たな国を造った初代国王イシュトバーンは、ローマ教皇より冠を授かり、戴冠した。以来、ハンガリーの王冠は国家の象徴的な存在となり、国王が亡くなるたびに王冠を巡っての激しい争いが繰り広げられる。
◆左)黄金に輝く主祭壇 左側に礼拝堂がある、右上) 聖遺物室にあるエリザベート皇妃の像、右下) 左に傾いた十字架を戴くハンガリーの王冠
2時半過ぎ、マーチャーシュ教会の東、ドナウ川に面して築かれた白亜の砦、漁夫の砦へ。
1896年の建国1000年記念建造物として計画され、1902年に完成した。ハンガリー的なとんがり屋根の大小7つの塔を持ち、ロマネスクとゴシック様式の混ざり合ったユニークな回廊が特徴。
7つの塔は、それぞれマジャル人の祖先であるフィン・ウゴル語族の名前がつけられている。漁夫の砦という名称は、かつてここに漁師の組合があって、王宮の丘の市場を守っていたことに由来する。砦から眺めるドナウ川とペストの町は美しく、ブダペスト観光のメッカとなっている。
◆左)漁夫の砦とブタの街並み 右上)漁夫の砦とマーチャーシュ教会 右下)くさり橋
◆左)漁夫の砦の前でハンガリー人のガイドさんと、中)くさり橋、右に見えるのが聖イシュトバーン大聖堂、右)王宮北側入り口付近の柵上に立つ伝説の鳥トウルル、ハンガリー建国の父アールパートを生んだといわれている。ホテルから歩10分
日中の入場は有料。風が吹き抜けて涼しく、ホッとする。フリータイムとなり、ペストの町の中心街にバスで送ってもらう人もいたが、ヒルトンホテルに泊まっている6人は、冷房の効いたホテルの部屋に戻る。
コーヒーを淹れて、のんびりソファーに寛ぎながらNHKのBSニュースを見る。疲れて観光はもうたくさんという気分。妻は帰国の荷造りを始める。3時前、黒い雲が空を覆い、雷が鳴って今にも雨が降ってきそうになったが、また青空が広がってきた。天気が目まぐるしく変化している。
◆上2枚)13世紀のドミニコ修道院の遺跡の上に建つヒルトン・ブダペストホテル
夕食までに時間があり、散歩に出る。10分で王宮前へ。意外に近い。雲行きが怪しくなり、ポツリポツリと雨が落ちてきた。王宮の軒先で一時雨宿り。小止みになったので歩き始めると、大粒の雨に変わる。走って「くさり橋」へ下りるケーブルカーの駅に駆け込む。たくさんの人が雨を避けて集まっていた。
5分ほど続いた土砂降りが止み、急ぎ足でホテルに戻る。石畳の道は、所々に穴が空いていて雨ですべり、何とも歩きにくい。雷が時々轟いている。ホテル近くまで来て、妻は土産物屋で買ったビーズのネックレスがないのに気づく。走った時に落としたらしく、残念がっている。出かける前にシャワーを浴びてさっぱりしたのに、また汗をかいてしまった。
7時20分、迎えに来たバスに乗って、フォークロアディナーショーのレストランへ。8時着。体育館のように広々としているが、すぐにいっぱいになる。食前酒のアルコール度数がかなり高い。飲み放題の白ワインも3杯飲んだらもう十分。スープとメインはポークとポテト、ライス。
◆フォークロアディナーショー会場は体育館のように広い。
民族舞踊ショーに盛り上がっている人もいたが、踊り手の女性が年配者ばかりできつい顔だったせいか、感動することはなかった。帰りの混雑を避け、終演前に出る。
民族舞踊ショー:スライドショー(横4枚)
バスはペスト側からブダの夜景を眺めながら走り、ブダ側の丘の上へ。10時、小雨の降る中、「くさり橋」の見える絶景ポイントへ。雨に霞んで思うような写真は撮れない。丘を下るバスの中、「くさり橋」の近くから撮りたいという声が多く上がったが、バスを止める場所がないようだ。10時半過ぎ、ホテルに戻る。
◆左) ポーク、ポテト、ライスのメインディッシュ、右) ゲッレールトの丘から見る左王宮とくさり橋
旅の9日目の5月29日、5時半に起床。2人とも寝不足続きで、頭がもうろうとしている。BSニュースでは、松岡農水相自殺の続報を流している。
6時40分ホテルを出発。今回の旅行で初めて寒く感じる。7時前というのに通勤ラッシュで、中心部へ向かう道は車でいっぱい。トラムからはたくさんの人がはきだされて、黙々と職場に向かっている。7時半空港着。手続きがスムースに済んで、妻は免税店巡り。JCBカードは使えず、私のマスターカードを使って最後の買い物を楽しんでいる。
10時45分離陸。間もなく「くさり橋」や、王宮が見えてくる。11時53分、雨のドイツ・フランクフルトに着陸。けっこう強く降っている。濡れながら移動のバスに走る。広大なターミナルビル。徒歩、モノレールで搭乗ゲートへ。妻が免税手続きをして、22ユーロ(3,740円)戻ってきた。マイセンのカップは、30,940円になった。
帰国便は、中央の4人席だったが、2人分空いていてゆっくり座れた。12時21分、ルフトハンザドイツ航空と全日空の共同運航便が、雨の降り続くフランクフルトを離陸。ドイツビールが実に美味しい。夕食の白ワインや七面鳥も美味しく、心地よく酔えた。
5月30日、朝8時4分関西空港着陸。同じ便に、第60回カンヌ国際映画祭、「殯の森」でグランプリを受賞した河瀬直美監督が乗っていて、空港でインタビューを受けていた。
◆関空でインタビューを受ける河瀬直美監督
- 完 -