初夏のスイス・ゴールデンルートを巡る旅④

      2024/02/06

◆望遠レンズが捉えたマッターホルン 中央右の三角の山

(いつものように写真のクリックで、拡大写真を見ることが出来ます。)

 

 

 1999年6月18日旅の7日目、スイス中央部ベルナー・オーバーランド地方のグリンデルワルトで3度目の朝を迎える。曇り空。6時40分、食事前の散策に出かける。
 清々しい冷気の中、シュレックホルン4,078m、ヴェッターホルン3,701m、アイガー北壁3,970mを眺めながらのウォーキングは何とも心地よい。

 ホテルに戻って7時40分アイガーを眺めながらの朝食。パンとハムにチーズ、卵、フルーツ、ヨーグルトにジュース、コーヒーで空腹を満たす。東京の母に元気で旅を続けている旨電話する。

 10時前、バスでホテルを出発。30分弱でラウターブルネン着。人口1,500人余の小さな町。氷河に削られてできたU字谷には高さ300mの断崖が両側に迫り、無数の滝が流れ落ちる。滝は小川となり水と緑の匂いが谷を満たす。ユングフラウの麓にありながら谷が深いため、山々がほとんど見えない。

 教会の塔のバックにシュタウプバッハの滝が見える。雪解け水が落下するラウターブルネンの数ある滝のなかでも特に勇壮で美しく、かのゲーテも詩に詠っている。
 ヨーロッパ第2の規模を誇る落差300mの滝は、あまりにも崖が高いため、途中で岩壁に当たって砕け散ったり、風に舞い上げられたりして、滝壺まで届く水は少ない。冬は凍結する。

左)2泊したグリンデルワルトのホテル・スピーネ、右) シュタウプバッハの滝

 11時近く、インターラーケンのアーレ川の船着き場へ。11時半、ブリエンツ湖ランチクルーズに出発。湖はベルナーアルプスの北に位置し、湖から流れ出る水はトゥーン湖を経てアーレ川に注いでいる。湖は長さ14km、幅2.8km。東西に細長く、面積29.8㎢、最大水深は260m。

 遥かにアルプスの山々を望みながら、旅で知り合った気の合う人たちとの食事は楽しい。スープ、ポーク、パスタとも薄味でなかなか美味しい。

 12時40分木彫りで有名な北岸のブリエンツ着。木彫りの店JOBINへ。気に入った小さな少女像を記念に買う。日本円で3万円もする。スイスは人件費が高いので人手がかかっている物は驚くほど高価。

左) ブリエンツ湖ランチクルーズの船、中) 船上でのランチ、右) 記念に買い求めた木彫りの人形

 

ヨーロッパで最も美しい緑と花の町、ベルンへ

 2時半、スイスの首都ベルンに到着。人口14万人、スイスで4番目に大きい都市だが、こじんまりまとまった中世風の町。町全体の3分の1が森や公園で、「ヨーロッパで最も美しい緑と花の町」と称えられている。

 スイスのほぼ中央に位置し、1848年首都となって以来政治の中心になっている。
 清涼なアーレ川が、緩やかに弧を描いて半島状の地形を造っている。半島の先端に1154年頃城が築かれ、1191年ツェーリンゲン公ベルヒトルト5世によって本格的な街づくりが始まった。町は段階的に拡大していくが1405年の大火で中心部の木造の建物は全焼してしまう。その後砂岩で再建された街並みは、大部分が現在も当時のまま残っている。

 今日この規模で、中世の佇まいが残っているのはヨーロッパでも珍しく、町全体がユネスコの世界文化遺産に登録されている。スイスらしい趣が今も漂っている。
 旧市街は西に向かって発展し、建物はそれぞれの時代を色濃く映している。町の特徴であるアーケードの回廊の左右にはモダンな店が建ち並び、新旧が巧みに調和している。

 町外れの小高い丘の上にあるバラ公園へ。町全体が見渡せる。バラが見事な公園には多くの市民が訪れ、思い思いに散歩を楽しみ、ベンチに座って憩っている。

左) スイスの首都ベルン バラ公園からの眺め 中央は大聖堂、
中)アーレ川は水量豊か ニーデック橋からの眺め、右) アーレ川とベルン旧市街

 バラ公園を下ったところに熊公園がある。熊はベルン市の象徴。ベルン州の旗にも熊が使われている。上から見下ろす3.5mの深さの濠の中で数頭の熊が寝そべったり歩き廻ったりしている。

 青く豊かな水をたたえるアーレ川をニューデック橋で渡ってクラム通りを西に進むと、旧市街に入る。大きく蛇行するアーレ川に挟まれた半島に旧市街の観光ポイントが集積している。正義の女神噴水を過ぎ左に行くと、大聖堂がある。

 1421年に着工し100年を要して完成した後期ゴシック様式の大聖堂には、100mの塔があり、スイスで一番の高さを誇る。建物正面の「最後の審判」の浮彫り、内部の15世紀のステンドグラスが有名。1528年の宗教改革でカトリックのものはすべて壊されたが、「最後の審判」の話はカトリックにもプロテスタントにも共通していたため、難を逃れた。18世紀のパイプオルガンは今もなお美しい音を聴かせてくれる。

大聖堂のステンドグラス

 クラム通りに戻って少し西に進むと、アインシュタインハウスがあり、公開されている。
1903年から1905年まで住み、相対性理論もここで完成させている。

 3時50分、ベルン市のシンボル時計塔へ。塔は13世紀の町造りの際、町と外の世界をつなぐ出入口だった。牢獄として使われた時期もある。1529~30年にかけて時計の仕掛けが取り付けられて以来市民に時を知らせてきた。観光のアトラクションとなっているカラクリ時計は毎時4分前になると動き出し、たくさんの見物客が集まる。

 食人鬼噴水、シュッツェン噴水、アンナ・ザイラー噴水を見て、緑色の丸い銅の屋根が見事な連邦議会議事堂へ。ベルンが首都になった1848年に建築が始まり1902年に完成した。
 ベルンは役人の町ともいわれ住民の25%以上が政府関係の仕事に携わっている。

左) ベルンのシンボル時計塔、中) スイス連邦議会の議事堂、右) 路面電車の走る旧市街

 野菜、果物のマーケットを見て回る。街角の花屋にはエーデルワイスの花が売られていた。スイスやオーストリアでも自然に咲いているエーデルワイスを見つけるのは難しい。

左) 街角で売られるエーデルワイス、中) 射撃手の噴水と時計塔、右) 中世の面影を色濃く残す街並み

 4時半、ホテルへ。ひと休みして旧市街に散歩に出る。7時夕食。

 

天候に恵まれ、周辺の険しくも美しい山々を堪能

 6月19日(土)、旅の8日目は朝からよく晴れている。6時20分に朝食をとり、7時過ぎバスでホテルを出発。車窓にレマン湖畔のシヨン城を見て、9時35分シャモニー着。

 シャモニーはフランス東部、西ヨーロッパ最高峰モンブランの麓にある標高1,036mの登山とスキーのリゾート地。人口は9千人ほど。1924年第1回冬季オリンピックが開かれている。

 10時、高速ロープウェイに乗る。5分で一気に1,300m昇りプラン・ド・レギーユ2,308mへ。乗り継いで、3,777mの山頂駅に着く。最後はエレベーターで10時30分、中央峰エギーユ・デュ・ミディ展望台へ。エギーユは針峰の意で、「ミディ針峰」。展望台は3,842mで当時の人生最高到達地点。高山病か、うずくまって苦しむ欧州婦人の姿も。

左) シャモニーからエギーユ・ディ・ミディ行のロープウェイの切符、
中) シャモニーからプラン・ド・レギーユへの高速ロープウェイ 1,300mの高度差を5分で一気に昇る、
右) モンブラン4,807mをバックに展望台3,842mから

 展望台からはモンブラン4,807mや三大北壁の一つグランド・ジョラス4,208m、ダン・デ・ジェアン4,013m、ベルト針峰を間近に見ることができる。モンブラン登山のグループがザイルで繋がって純白の斜面を進んでいく。

左) 右下に小さくモンブラン登山の人たちが見える、
中) 山群左側はグランド・ジョラス4,208m、右)モンブラン

 雲一つなく晴れ上がったこの日、遠くスイスのマッターホルン4,478mやモンテローザ4,634mもくっきり見える。10回も来ているがマッターホルンが見えたのは初めてだと、フランス人が感激している。

左) 望遠レンズが捉えたマッターホルン 中央右の三角の山、
中) 正面右がマッターホルン、右端がモンテローザ、右) モンブラン

左) モンブラン登山の人々、中) ベルト針峰、
右) 右の高峰は三大北壁の一つグランド・ジョラス 左手に小さくマッターホルン

 天気に恵まれず、旅の間にアルプス三大名峰の一つも見られない人も多いというのに、私たちは、6月15日マッターホルン、モンテローザ、17日ユングフラウ、メンヒ、アイガー、19日モンブラン、グランド・ジョラスそして遠くマッターホルン、モンテローザをくっきりと見ることができた。まさに奇跡である。

 12時50分、下山後ロープウェイ駅前のレストランで昼食。白ワイン、妻はぶどうジュースに、野菜サラダ、チキンフライ、パスタ、デザートにフルーツ。

左) 下山途中乗り換え駅プラン・ド・レギーユ2,309m 後方の人たちはスキーヤー、
右) 下山後シャモニーで昼食

 

国際機関が集結している国際都市、ジュネーブへ

 2時出発、3時スイスのジュネーブへ。周囲をぐるりとフランスに囲まれ、いろいろな所で土地をフランスと共有している。国際空港も敷地の半分はフランス領。ジュネーブはスイスではないといわれる国際都市で、国連ヨーロッパ本部や国際赤十字委員会など、国際機関が集結している。世界各地からの観光客や、地中海諸国からの出稼ぎ労働者が多い。

 市内を車窓観光して、ギャラリーレラックで買い物。皇太子妃雅子さんが皇太子に贈ったチョコレートを買う。夕方5時半から高さ140mの大噴水を眺めながらレマン湖畔を自由散策。モンブラン桟橋、ロジュマル広場、日本領事館周辺、花時計のある英国公園を巡る。

左) レマン湖畔の散策、中) レマン湖、右) レマン湖モンブラン桟橋

左) ロジュマル広場、中) 英国公園、右) 英国公園の花時計

 7時、ホテルのレストランでミートフォンデュの夕食。

左) 日本総領事館近く、中) ミートフォンデュの夕食、右) 夕食後の散歩

 食後、8時過ぎから湖畔とジュネーブ(コルナヴァン)中央駅周辺を散歩。9時半ホテルに戻る。

 

ジュネーブ空港から、エールフランス便、パリ乗継ぎで帰国の途へ

 6月20日(日)朝7時、快晴の空のもとホテル周辺を散歩。遠くモンブランの白い峰が見える。8時に朝食。
 帰国を前にロビーで寛いでいたとき、植木の鉢に2方を囲まれた一角でひと騒動が起こる。ソファーに腰掛け脇に置いたバッグがない…と老夫婦が蒼ざめている。中にはパスポートや財布が入っていたという。
 全ての旅程を無事に終え、あとは帰るだけという気の緩み、一瞬の隙をついて盗られたようだ。パスポートの再発行には数日かかるので、通訳兼ガイドを雇い、ホテル代や航空賃個人負担で帰国することになる。
 この事件以来、海外ではパスポートのコピーや写真を常に持ち歩くようにしている。

 老夫婦を残して、9時ホテルを出発。10分で空港へ。

 11時、エールフランス航空でジュネーブを発ち、パリで乗り継ぎ帰国の途に。

左) 朝の散歩 遠くモンブランの白い峰が見えた、
右) ジュネーブ空港 エールフランス便でパリ乗り継ぎ、帰国へ

 - 完 - 

 

 

 

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