万葉集から演歌まで 好きな詩、短歌、俳句、歌詞を教えて下さい。new

   

衛藤(高原) 忠興

 この企画へ、多くの皆さんが好きな歌として「万葉集」を挙げておられますが、私も万葉集を愛読。中でもとくに好きな作品を紹介します。

第1位は

■作者:額田王(大海人皇子の妃であったが、のちに兄天智天皇の後宮に入るという数奇な運命をたどった飛鳥時代の歌人)
■現代語訳:茜色の光に満ちた紫の野、天皇の御領地である蒲生野で、あなたがしきりに私に袖を振っているのを、御領地の番人が見咎めるのではないかと心配です。

■解釈:天智7年(668年)5月5日、前年に飛鳥から近江に都を移した天智天皇は、弟の大海人皇子や額田王のほか大勢の供を引きつれ、ご領地である蒲生野に遊猟した。額田王は、その美貌と才能で二人の皇子に愛された万葉歌人で、この歌はこの時に彼女によって詠われたもの。天智天皇と大海人皇子(のちの天武天皇)は、兄弟で額田王を取り合った恋敵であるが、その危うい関係を詠んだ相聞歌がこの歌である。
◎解釈はどうあれ、額田王の感性が私は好きです。

第2位は

■作者:不詳
■現代語訳:稲をつけば、あかぎれができてしまう私の手を、今夜もお屋敷の若様が手に取って、可哀そうにと嘆いてくれるでしょうか。
■解釈:古代は、鼠や虫から米を守るために、食事のたびに米を精米していた。そんなお屋敷で下働きをする身分の低い少女の歌とされている。

※白水秀俊君も好きな歌として、この歌を挙げています。解釈はどうあれ、作者の大胆、純情、素朴、勤労が私は好きです。

■作者:防人
■■現代語訳:衣服の裾に取りついて泣き叫ぶ子らを、置いて出てきてしまったなぁ。あの子らにはすでに母も亡くなっていないというのに。
■解釈:この歌は、防人となって西国の国境警備に赴くため、我が子と引き離されてしまう父親の苦しみを詠った歌です。父である自分が家を出て、母もいない家庭に、子どもだけが取り残されるという過酷な状況を、父親は身を切られる思いで詠んでいます。

※万葉集の歌には優劣など付けられません。すべての作品がトップです。市丸さんが掲げなかったら私も1位に挙げました。

※『きけ わだつみのこえ』という本があります。第二次世界大戦末期に戦没した、日本の学徒兵たちの遺書を集めた遺稿集です。私はその内容を紹介することができません。最初の数人を読んだところで涙で目が曇り、読み続けることができませんでした。国防は万葉の世から現代までわが国の悲願です。

※「昭和万葉集」は、昭和元年から半世紀にわたる激動の時代につくられた短歌を、時代を追って分類、配列したアンソロジーです。結社所属の歌人ばかりでなく、広く一般から職業、年齢、有名無名を問わず求め、その数およそ8万2000首の短歌が収められています。私には昭和万葉集を読む資格も、ましてや平然と紹介する度胸などありません。

 

 

 

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