バルト海クルーズと神秘の北欧4ヶ国の旅 ③ノルウェー編(後編)

      2023/07/29

◆ベルゲン・世界遺産ブリッゲン地区の建物

【プリントされたアナログ写真をデジカメで撮影したデジタル写真を使用しており、編集部で可能な限りの補正はしましたが、画質が通常よりも劣ることをご容赦ください。】

 

 

 

ソグネフィヨルドの最奥にある小さな村ラルダールからクルーズに出発

 

 2000年8月31日、旅の6日目。朝6時前、外はまだ暗い。雲が低く垂れこめ、細かい雨が降っている。日本の晩秋といった感じ。日本人ウエイトレスがレストランの鍵を開けるのを待って、朝食。添乗員はパンとコーヒーのみのコンチネンタルと言っていたが、他にハムやチーズ、野菜、果物、コーンスープ、ゆで卵、牛乳などがあって十分満足できるもの。テレビの天気予報では、北欧は今日も雨のようだ。

◆ラルダールの町の朝の散歩

 8時前、ラルダールのホテルを出発。バスの2列目の席(最前列は危険回避のため乗客は座れない)を確保。5分もしないうちに港に着く。写真を撮りながら船の出航待ち。冷やりしている。

ソグネフィヨルドのグドバイゲンからフロムまでクルーズ

 

 8時13分、フェリーに乗船。妻が乳がん手術を受けたばかりという婦人と話し込んでいる。元気である。スイス、ネパールなどあちこちの国を巡り、南極にも行ったという。フェリーには他の日本人のグループも。

左)ソグネフィヨルドクルーズ ラルダール~グドバイゲン、右) フィヨルドの水面は鏡のよう

 8時半出港。世界最長のソグネフィヨルドへ。長さ204km、最深部は1308m。ノルウェー第2の都市ベルゲンの北から内陸部に延び、先に行くほど何本もの細いフィヨルドに枝分かれしている。
 フィヨルド観光最大の目玉であるグドバイゲンからフロムまでクルーズ。フェリーは観光船であると同時に地元の人々の生活の足でもあり、途中2ヶ所の村に寄港する。
 最狭、最深部にはアザラシやイルカもいるという。すぐに最上部の甲板に出てフィヨルドの眺めを楽しみつつ、アザラシなどの姿を求める。風が冷たく、途中、寒くなって一時船室に入ったが、ほとんどの時間甲板で過ごす。そのうち雲が切れて青空や太陽がのぞき、少し暖かくなる。甲板には着飾った女性が何人もいて、中に和服の日本人の姿も。着物を持って来るのも、着付けも大変なのにと妻が感心している。イルカが跳ねている。水はほとんど淡水。

左) 手入れの行き届いた家々がかわいい、中) クルーズ船のデッキ、右) 北欧の子供はどの子もかわいい

 圧倒的なスケールのソグネフィヨルド。迫力にただただ感動。自分が今まさにソグネフィヨルドにいることが信じられない。

左上) ソグネフィヨルドクルーズ、左下) フィヨルドに流れ落ちる滝、右) フィヨルドの岸には農家が点在している

左) フィヨルドが次第に狭くなっていく、右) 集落には必ず小さな教会がある

左) フィヨルドの水は淡水化していてしょっぱくない、右) グドバイゲン船着き場近くのレストラン

左) グドバイゲンの船着き場の近く 滝が幾筋も流れ落ちている、
右上) グドバイゲンの船着き場、右下) クルーズ船 外から見ると意外に小さい

左) フィヨルドに架かる橋、右) フィヨルドに架かる橋の上から

 昨日のゲイランゲルフィヨルドと比べ滝の数は少なかったが、3時間のクルーズ、飽きることなくあっという間に過ぎた。2度と出来ないだろう素晴らしい体験だった。

急勾配のフロム鉄道でフロムからミュールダールまで

 

 11時35分フロム着。徒歩で近くのレストランへ。11時50分、昼食。クルーズで冷え切った体に熱いトマトスープが何とも美味しく、生き返る。白ワイン、サラダ、チキンボール、ライス、チョコレートケーキにコーヒー。

 1時出発。10分でフロム駅へ。フロムは山間の小さな平地という意味をもつ。アウルランフィヨルドとフロム渓谷の山々に囲まれた人口500人の小さな村。夏には大型クルーズ船も寄港する。
 1時間ほど時間があり、お土産を捜すもこれというのがない。トイレは有料。俄雨が降るもすぐに青空が広がる。雀が太っていて、別の鳥かと思った。日本の雀よりかなり大きい。2時35分スイスの登山鉄道を思わせるフロム鉄道が発車。9号車の窓側に座る。

左) フロム鉄道の始発駅フロム、中) 昔の機関車、右) フロム鉄道の車両

 フロム鉄道は、フロムとベルゲン急行停車駅ミュールダールを結ぶ登山鉄道。全長20kmの急勾配、867mの標高差を1時間かけて上る。右に左に息をのむ絶景が連続する。途中、急峻な岩肌を縫って氷河の雪解け水がダイナミックに流れ落ちるショース滝で、5分間写真停車する。落差93m。水量が多く圧倒的な迫力。3時35分着。乗り換え待ち。

 

ショースの滝

 

ミュールダール駅

 3時55分音もなく発車。列車はミュールダールから氷河が作り出した渓谷を縫って一路ベルゲンへ向かう。ヴォスからフィンセの間は雄大なU字谷が広がり、雪解け水をたたえた湖や清流が車窓の右へ左へと流れる変化に富んだ風景は、ヨーロッパ屈指の景勝ルート。厳しく美しい自然を満喫させてくれる。フィンセは、沿線最高所1,222mの駅。夏でも残雪が見られ、駅周辺にはハイキングコースもある。

 外気が冷やりしている。木の葉も少し色づいて秋の気配。下り一方で予定より5分早く4時40分着。近くの店で30分のショッピング。母や弟にいい土産が買えた。

バスでミュールダールからベルゲンへ

 

 5時10分バスで出発。疲れでつい眠ってしまう。6時25分ベルゲンのホテルに到着。背中のあたりがしんどい。部屋に入るとテレビの画面に「DEAR MR/MS TANAKA It is a pleasure to welcome you to Hotel BRYGGEN ORION」と出ていて驚く。

 ベルゲンは、人口24万人のノルウェー第2の都市。フィヨルドの入り組んだ海岸線のすぐそばまで山が迫り、僅かな平地に木造家屋が密集している。そのため山肌にも白い家が張り付くように建っている。道幅が狭く、火災が発生するとすべて焼き払われてしまう。

 

 町の歴史は古く、1070年に拓かれ、12~3世紀はノルウェーの首都だった。14~5世紀にはハンザ同盟に加盟。ハンザ商人統治のもと名産の干ダラの輸出で急速に発展し、17世紀ハンザ同盟が終結するまで400年に亘って隆盛を誇る。港に面したブリッゲン地区には、13~16世紀にドイツのハンザ商人の家や事務所として建てられた4~5階建ての傾いた木造の家屋が壁のように並んでいる。奥行きがあり、入って行くと迷路のようになっていて、店や手工芸の工房もある。中世にタイムスリップした気分を味わえ、当時の姿をとどめる貴重な建物として世界遺産に登録されている。

左) 夕食後ベルゲンの街を散策 ブリッゲン地区、中) 灯りがともり始めた世界遺産ブリッゲン地区の建物、
右) フロイエン山へ登るケーブルカーの乗り場近く

 ハンザ同盟解体後、漁業以外に造船業や手工芸品にも力を入れ、ノルウェー最大の港湾都市となった。町は港と駅の2つのエリアに別けられ、町の中心は港の周辺。ブリッゲンなどの主な見どころも港沿いに集中している。

 かつてノルウェーの首都だったというだけある。期待に違わぬいい町で、じっくり楽しみたい魅力に溢れている。部屋からの眺めも素晴らしい。
 ベルゲンに住む日本人は2~30人という。アラスカと同じ緯度だが、海流の関係で冬でもマイナス8℃くらいとそんなに寒くない。
 7時20分市内のレストランで夕食。ビール、スープはまずまずだったものの、メインのシーフードは期待外れ。ご飯が硬くて残す人が多かった。今日72才の誕生日を迎えた人がいて、添乗員がワイン1ボトルをプレゼント。皆でハッピーバースデーを歌って祝う。食後、コーヒーがポットででてきた。

 ノルウェーのコーヒー文化は、日々の生活に欠かせないものになっている。一人当たりのコーヒー消費量はフィンランドに続き世界2位で、年間10kg消費している。
 朝の1杯、仕事の合間の休憩時間や食後、友達と話すとき、毎日のルーティンにコーヒーは欠かせない。シャイな国民性のノルウェー人は、コーヒーがないと話せないとジョークでいわれる。品質にこだわったコーヒーを提供するカフェが多い。

 

 自由時間になって9時、全長844mのケーブルカーに乗る。途中4つの駅を経て、8分で標高320mのフロイエン山山頂へ。頂上にはカフェレストランや土産物店があり、展望台からは町全体が見渡せる。夜景がなかなかのもの。

フロイエン山展望台から眺めるベルゲン 左)昼、右)夜(田中君アップ了解済み:藤本撮影:2003年5月初旬)

 薄暮の空に建物の壁の白さが際立ち、オレンジ色のやわらかい灯りに包まれ人のぬくもりが感じられる。蛍光灯が使われていないのがいい。添乗員から下りは歩いた方がいいとのアドバイスがあったので、片道切符にした。同行の人たちは、片道切符を買うのに身振り手振り、四苦八苦して窓口の人にやっと理解してもらっていた。ひと言「One way please」と言えばいいのだが…。

 下りの道が分からず、同行のグループ8人を代表して売店の女性に尋ねる。途中大きく遠回りしているようで不安だったが、下るうちに頂上から眺めた見覚えのある高速道路が見えてきて、ほっとする。添乗員は20分、早い人で15分もあれば下れると言っていたが、37~8分かかってしまった。山の中腹の住宅街の家々はみな大きくて立派な造り。カーテンを閉めている家はなく、きれいに整頓された室内が淡い橙色のライトに浮かび上がる。何とも落ち着いた感じ。国の豊かさが伝わってくる。

 世界遺産の傾いた建物群を散策し、深い奥行きに改めて驚く。9時50分、ホテルに戻る。シャワーを浴びて、ほっとする。母に無事の電話をする。日本は相変わらず暑いという。

 

 9月1日、旅は7日目に入る。疲れが出てぐっすり眠りこみ目覚ましに起こされる。5時半起床。雲は多いが雨は大丈夫なようだ。年間284日、2/3は雨が降るベルゲンにとって曇りはいい天気の部類に入る。窓からライトアップされたホーコン王(Hakons hallen)の館が見える。バスルームに床暖房が入っていて驚く。旅もあと3泊。

 6時半、感じのいいレストランで朝食。出発の早い外国人のグループがたくさん。美味しそうなポテト料理を皿に取り過ぎて満腹となる。いつもバスで前方の席を占拠している4人組のおばちゃん連中、果物が出された途端あっという間に全部さらって行った。あとの人たちのことは考えないらしい。どこまでも迷惑な人たち。7時半、ホーコン王の館に向かって、海の方へ散歩に出る。
フロントで昨夜東京に電話した料金を精算。12クローネ(150円)。

 

朝食後ホーコン王の館を散策

ホーコン王の館近くのマリア教会

 8時出発。ブリッゲンの北100mにあるマリア教会を見て、港の奥まった所にある観光案内所で開かれている魚市場や港を見物。その場でサーモンやエビのサンドイッチが食べられ、どれも新鮮で美味しい。36クローネ(440円)の苺が実に見事で買ってしまう。郊外の作曲家エドヴァルド・グリーグの家へ向かうバスの中で、妻と2人でペロリと平らげる。

 

ベルゲン魚市場

左) 生花店、右) 苺が安くて美味しい

左) ベルゲンの街と港、右) ベルゲンの港

左) ベルゲンの街 後方はフロイエン山、右) ベルゲン ブリッゲンの世界遺産の建物群

バスで作曲家エドヴァルド・グリーグの家へ

 

 9時前に着く。グリーグが22年間住んだ白いビクトリア風の建物で、フィヨルドを見下ろす所に建っている。屋内は博物館になっていて、書斎や専用のハーバーが素晴らしい。入り江の方に下りて行くと、作曲をするときに使われた小屋、反対側に行くとグリーグ夫妻が埋葬された風変わりな墓がある。夏季には様々なコンサートが催されている。

左) グリーグミュージアム、右) グリーグの家 夏の間だけ住んだ 冬仕様になっていない

左) グリーグの家、右) フィヨルドの見える小さな小屋でグリーグは作曲した

左) 右端にグリーグの像 身長155cm、右) グリーグ像

左) グリーグの墓、右) グリーグ家専用の船着き場

飛行機でベルゲンからオスロへ

 10時出発、15分で空港へ。残った小銭で1枚6クローネ(95円)の絵葉書5枚とスナック菓子を買う。11時18分搭乗のブローテン航空066便は自由席で、窓側の席がとれた。後からノルウェーの人たちが乗り込んで来て満席。右隣に膝が前の座席にくっつく巨体の持ち主が座る。

 晴天のもと11時40分離陸。ベルゲンの町や近郊の村々、フィヨルドがくっきり見え、まるで箱庭のよう。やがて残雪の山々、フィヨルドが次々に目に入る。自然が作り上げた造形は何とも素晴らしく、感動。デンマークもノルウェーも1ヶ国ずつゆっくり巡りたい……。

 しばらくすると、下界は厚い雲の下となる。機内の飲み物は有料で、持参の水で渇きを癒す。そのうち雲に切れ目ができ、下界の様子が見え始める。丸い虹が何度もでき、雲に機影が写っている。自然のパノラマは見飽きることがない。ノルウェーの湖水地方の眺めを堪能して、雲の下のオスロに12時21分着陸。1時08分バスで空港を出発。そのうち青空ものぞくいい天気に。オスロ市内まで45分。日が当たり始めるとバスの中は暑いくらい。ガイドから使い残しのノルウェー・クローネの扱いの説明がある。

 2時昼食。ライトビールが25クローネ(390円)。近くに国立美術館があり、ムンクの「叫び」が展示されているという。あまり時間がなく皆、走って美術館へ。思いがけずムンクが観られて幸せな気分。

バスと鉄道でオスロからスエーデン(ストックホルム)へ

 2時40分出発。鉄道の駅へ。スーツケースを運び終えてほっとしたところで、3時に緊急事態が発生。線路の状態が悪く、列車はキャンセルされたという。やむなくバスをチャーターし、3時半出発。ベテラン添乗員の見事な対応に皆、拍手。
 麦畑が延々と続く穀倉地帯を走る。ノルウェーの広大さを味わう。北海道の富良野なんて目じゃないと妻は言う。遠くにホルメンコーレンのジャンプ台が見える。1時間くらい走って、5時、Kongsvinger着。スーツケースを列車に運び込む。

 同行の夫婦連れが、ストックホルムのホテルに着くのは一体何時になるのだろうと、不安気に話す。洋風弁当が配られる。5時半思いのほか早く発車。45分の遅れで済むと聞きホッとする。空腹感はなかったが何とか弁当を食べ終える。列車は、遅れを取り戻すようにかなりのスピードを出している。長い時間が玉に瑕だが、列車の旅も悪くない。寝不足と疲れで4時間ほど眠りに眠る。セーターでは暑かったが、脱ぐのが面倒でそのまま眠り続ける。乗客は頻繁に入れ替わっている。

 4時間半の列車の旅がようやく終わりをつげ10時05分、スウェーデンのストックホルムに到着。静かな落ち着いた街を想像していたが、中央駅の構内には奇声を発する若者があちこちにいる。巨体をゆすって歩き廻る若者もそこここに。夜にはとても散策などできそうにない物騒な雰囲気。
 ポーターがいないので、現地ガイド(体の大きな女性)の案内でホームからエレベーターと徒歩でバスまで各自スーツケースを運ぶ。灯りが少なく暗い感じ。若者が騒ぐのは週末のせいかも知れない。
 ホテルは思いのほか遠く、11時15分やっと部屋に入る。いい部屋なのだが寝不足と疲れで気分が悪い。6時間かかるなら列車はやめて飛行機移動にしてほしかった。

 - バルト海クルーズと神秘の北欧4ヶ国の旅④に続く。-

 

 

 

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