『目指そうSDGs』講座

      2023/07/29

住田 章夫

 この3年間、悩まされ続けたコロナ禍も多くは「エアロゾル感染」によるものと日米の研究機関から発表され、遂に首相直轄コロナ司令塔『感染症危機管理庁』が新設された今、これから私たちは真剣に、自らが住むこの地球と労り合って暮らしていくことを、しっかり考えねばなりません。

SDGs17の目標の②「保健生活」、⑪「持続可能な居住環境」の確保こそ重要なのです。
その為に、私たちが置かれている世の中や、実際の地球環境について現実認識しておきましょう。

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■SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国により、2016年から2030年の15年間で達成するために目標として掲げられたもの。【編集部注】

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【講座その1】:はじめに

我が国はもとより、世界各国で温室効果ガス排出実質ゼロを目指した「カーボンニュートラル」が叫ばれていますが、その意味がお解りですか?それは私たちの住む地球の森林たちが吸収してくれている量の何と倍の「温室効果ガス」が、この地球上に排出されてきたからです。

 一方、海を眺めますと、ほぼ20世紀の100年間で海面が「19cm上昇」しました。2013年、IPCC報告書では21世紀では「最大82cm上昇」と公表されたものの、予想外の速さで進んでいますので、「最大110cmまで上昇」するのではとの警戒感も出ています。海面上昇は北極海の氷が溶けるからとよく耳にしますが、実体はグリーンランドなど陸上の氷河・氷床が溶け始めるのが先で、併せて温まった海水が膨張する(20℃の海水が1℃上昇すると、体積が約0.025%膨張する)からなのです。
この地球の危機を救うのはIPCCでも国連でもなく、紛れもなく私たち一人一人の覚悟です。

【講座その2】:地球の危機

 2022年、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)より「このままでは2100年には平均気温が最大4.4℃上昇する」との発表がありました。地球の平均気温は現在「14℃」と快適ですが、それは太陽の光が地表を温め、その放射熱を水蒸気、CO2・メタンなどの「温室効果ガス」が光合成などで吸収してくれているからであり、それらが無ければ「▲19℃」の氷の世界。逆に効果ガスが大量になってくると、大気中の濃度が上がってしまい、熱の吸収が増えて、地球はビニールハウスに包まれる状態になります。

 温室効果ガスの中のCO2構成比は「77%」。そのCO2も産業革命前は濃度は「280ppm」であったのが、2013年ではいつの間にか「400ppm」。年間平均気温も20世紀の100年で「0.6℃上昇」に対し、2012年までの30年間では「0.85℃上昇」。それが2100年には「最大4.4℃上昇」という予測。
 そこで遂に、2015年「パリ協定」では「産業革命前より《1.5℃上昇》までに抑える」努力目標が決議されました。

【講座その3】:地球を救おう

 では私たちはこれからどうすれば良いのでしょうか? 所詮、我々が身を正し、無駄を失くしても「地球を救う」など手の届かないことだ、と諦める前に、少し目を宇宙に置いて“我が地球”を眺めてみましょう。そうすれば、世界の人々と手を取り合えば実現に近い処に居るんだ、と言うことが解ります。IEA(国際エネルギー機関)によれば、「ネットゼロ(排出量実質ゼロ)炭素経済」達成のためには、世界の国内総生産(GDP)年間総額の僅か「2%」の費用を用意すれば実現可能と報告されています。つまり、生態系に優しいテクノロジーとインフラへの投資を、2020年の水準から「あと2%」増やせば「地球が守れる」と断言しているのです。

 世界のGDP総額はおよそ85兆ドル(約9700兆円)。だからその「2%」は「1兆7000億ドル(約194兆円)」。我が国が今、GDPの倍額1000兆円の借金をしているのに比べれば、経済を混乱させるレベルでもなく、現代文明を破壊するものでもありません。不要不急を皆でよく考えましょう。

【講座その4】:提言① 軍事予算を回しましょう

 2020年における世界各国の「軍事予算」はいくらかご存知ですか?
米国7782億ドル、中国2523億ドルを筆頭に、9位日本491億ドルを含むTOP10で「1兆7000億ドル」。何と世界GDPの「2%」と同額なのです。ならば“Stop the war!”の掛声で、世界TOP10が1年間の軍事費を“地球救済”に当てて頂きましょうか。

 米国は過去、イラク戦争で何と3兆ドルも注ぎ込んで何の益なし。そして今度はロシア。さてさてプーチンはこれから幾ら注ぎ込んで、何を得る積りなのか!中央銀行の外貨準備高6300億ドルの6割は欧米同盟国の経済封鎖に抑え込まれ、ルーブルは激しく下落し、国民はソ連崩壊後のハイパーインフレの辛酸を再び舐めることになるでしょう。このように戦争は「死に金」を増やします。ならばいっそ《地球を救う》ことに使って欲しいのです。

【講座その5】:提言② 食品ロスを失くしましょう

 もう一つ「無駄なお金」が世の中に存在しています。何か解りますか?
そう「食品ロス」です。2021年、WWF(世界自然保護基金)から全世界で「25億トン」もの食品廃棄の実態が報告され、その内訳は農場で12億トン、製造・流通で4億トン、小売り・消費者で9億トンでした。そしてこれが何と総生産量の「40%」に相当するというのが一番のショックです。日本では店舗での売れ残り、食べ残しが55%、家庭での廃棄が45%と言う状況でした。

 問題は2011年、FAO(国連食糧農業機関)調査結果での食品ロス「13億トン」が、今回10年後では何と倍増していたという事実です。2019年時点での世界人口77億人に対し、2050年には97億人の見込。8億人もの生活困窮者がいる現在から見れば今後、非常に深刻です。国連サミットではSDGsターゲットの一つとして「2030年までに小売・消費レベルにおける食料廃棄の半減」を掲げました。《勿体ない!》精神をもっと世界中に広げましょう。
 そしてこれからは皆さんの鞄の中に『ドギーバッグ』を入れておきましょう。フランスでは2021年、飲食店に対して、食べ残し持ち帰り用『ドギーバッグ』提供が法制化されました。その内、日本もそうなります。

【講座その6】:提言③ 隠し金に課税しましょう。

今回は趣向を変えて映画のような話をしましょう。
 皆さんは「タックス・ヘイブン」と言う言葉を聞いたことがありますか? よく「税の天国」と耳にしますが、「天国」は「Heaven」であり「Haven」は「避難所」。つまり「租税回避地」の事です。他国の税務当局の手が届かない国、例えばカリブ海のケイマン諸島などが有名ですが、そこに大手国際企業、或るいはマフィアの莫大な資金が集まっています。国法非介入の米国デラウエア州では、或る2階建てのビルに弁護士名義で31万社のペーパーカンパニーが登録されていました。遂に、国際ジャーナリスト連合(ICIJ)から暴露本『パナマ文書』が出され、プーチンが゙2200億円、習近平も親族ぐるみでの隠し金が暴かれました。何が正義の侵攻だ。とんでもない。
 今や世界では《1%の富裕層が地球全体の50%の富》を握っています。その多くが表に出ず、「世界GDPの10%」に値する富が、タックスヘイブンに隠されていると言われています。その内、「2%」分で良いから、各国司法が手を組んで『地球環境税』として差し押さえできないものでしょうか。

【講座その7】:アマゾンを買って、自然を守ろう。

「森はCO2を吸って、酸素を出します。食物を育て、綺麗な水を生み、川を作ります。川は島国の日本の血管です。清らかな流れに山女魚が泳ぎ、その川はやがて海に注ぎ、蒸発して雲となり、そして山に降り注ぐのです。自然を守りましょう。孫たちの為に」。長野は黒姫に永住した英国人C.W.ニコルの言葉です。「里山の保全」「森と人との共生」に79年の人生を掛けました。

 大気中に排出されたCO2の内、「25%」は植物や土壌が吸収します。中でもアマゾン熱帯雨林は、これまで既に「4500億トン」ものCO2を吸収している地球最大のオアシスだった筈が、この10年間で「吸収139億トン」に対し、「排出166億トン」に転じてしまいました。つまりオアシス「アマゾン」は森林伐採、高温化による山火事・旱魃に晒されているのです。
 この熱帯雨林を丸ごと買い上げるには「8000億ドル」が相場と言われていますが、これは世界GDPからは、僅か「1%」に過ぎません。さて今年11月、エジプトで気候枠組条約会議COP27が開催されます。「1.5℃上昇抑制」をお題目に唱えるだけの各国首脳に、しっかりペンを握らせ、世界GDPの「2%」、最低でもアマゾン共同購入費「1%」の小切手にサインさせようではありませんか。

【講座その8】:「グリーンカーボン」と「ブルーカーボン」

今や世界の関心事は「地球の気候変動」です。地球の気温上昇が原因とみられる災害が各地で起こり始めています。例えば、豪雨による洪水、渇水、山火事、海水温の上昇、氷河の溶解、海水面の上昇など悲惨な状況を生み出していますが、その最大の要因は≪CO2の過剰な排出≫なのです。

日本ではCO2の排出量について、2030年には「13年比▲46%」の7.6億トンまで削減し、2050年には「カーボンニュートラル化」を目標に据えました。しかし発生源に対する施策は強化されているものの、吸着源についてはあまり話題になっていません。その《吸着される炭素》は大きく分けて
「森林など陸上植物が吸着したグリーンカーボン」
「海藻やマングローブなど海洋生態系が取り込んだ炭素のブルーカーボン」の2つです。
とりわけ、海洋国家である日本のブルーカーボンへの取り組みが期待されており「地球温暖化対策計画」では2050年のカーボンニュートラル達成にブルーカーボン開発目標が盛り込まれました。

海洋生態系のCO2吸収量は、地球全体で排出されるCO2の何と「30%」に当たり、この吸収量はグリーンカーボンより多いのです。なかでも沿岸部から200海里の排他的経済水域を指す「大陸棚」付近が効果大で、そこはCO2吸収に重要な、日光が届く水深40~60m程度の沿岸浅海域なのです。「浅海域」は海洋全体の面積の僅か「1%」に過ぎないのに、ブルーカーボン生態系が吸収する炭素量は海洋全体の「80%」を占めます。そして何より貯留された炭素は有機物として海底に堆積するため、森林に比べて遥かに長い期間、大気から隔離されるメリットがあります。

我が日本は国土は小さいのですが,海洋線は世界でも「6位」の長さを持ち、「約7000」の島々に囲まれた海洋国家。北の昆布などの海藻類の藻場から、南のマングローブ林や塩生湿地に至るまで、その長い形状により多彩な海洋生態系を有していますので、世界に率先して、《ブルーカーボン》のリーダーシップを取るべき立場にあるのです。

おわりに

 これが講座を締め括る最後の章ですが、今までいろいろな事象で述べた数字は国連の「気候変動に関する政府間パネル」の評価にも通じるもので、同パネルが2018年に発表した報告では「気温の上昇を1.5℃に抑えるには、クリーンエネルギーへの年間投資額を世界GDPの“3%”まで増やす必要がある」と決議されました。既にこれまで参加国ではGDPの“1%”を費やしてきましたので、あと“2%”頑張りましょう。前述した《3つの提言》の内、どれか一つでも実現すれば、この危機的な状況に立つ私たちでも、可愛い孫たちの笑顔を保証できるのです。

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《注記》

 この提言はイスラエルのヘブライ大学、歴史学者ユバル・ノア・ハラリ教授の著書『サピエンス全史』を参考にしました。教授はこうも言っています。
「コロナパンデミックにおいては2014年、エボラ出血熱が大流行した折、米国が率先して関係国を結束させ、危機を脱しました。処が何時の間にか米国は「アメリカ・ファースト」で一人よがりの文化となり、協力する国は失くなりました。そして困ったことに、世界的に外国人嫌悪と孤立主義が蔓延してきた感じがします。今こそ欧州連合が失ってきた支持を再び取り戻す機会になったのではないでしょうか。被害の出ている国々に惜しみなく資金や医療従事者を送り込めば、どれほど《EU統合》の価値を立証できることでしょう」と。
 今こそロシアがウクライナに侵攻するパワーを全て、エアロゾル感染防止、パンデミック解除に振り向ければどれほど国際的評価を高めることか。そしてプーチンの持つケイマン諸島の2200億円もここで活かせば、犯した罪も軽くなるでしょうに。

- 了 -

 

 

 

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