京都で初めて受けたカルチャーショックの一つ、それは男の人が話す京言葉でした。
やわらかくはんなりとして、雅な趣もあり、上質な絹織物でくるまれるような心地とでも
表現したらよいのか…。田舎から上ってきたばかりの、無防備な少女(私のこと)の
心には、初めて聴く音楽のように響いたのでした。
その人は下からのエスカレーター組で、中学の頃からワンダーフォーゲル部で活躍していたという、別世界の人。洛中に生まれ育った子らしく、どことなくおっとりとして、やわらかい言葉をあやつりながら、眼差しの先にはいつも険しい山々の登攀があるという、その硬軟の落差に、心を鷲づかみにされてしまったのでした。