一丁目の夕日 ~住田家の人々~ 【第二話】 お手玉と綾取り
【 第二話 】 お手玉と綾取り
■お手玉:
女の子の遊びと言えば、何と言っても「お手玉」である。
男の子のように初めからボールを握って、投げ合うことはしない。
柔らかいボール、それも中にはあずきを入れたふわふわの球である。
処が、食糧難の時代に高価な豆を遊び道具に使うなど許されない。
小川で小さな玉砂利を探すのだが、小さな女の子には重すぎる。
そこでお母さんはへそくりの中から、何とか「おはじき」を買ってあげた。
実は女の子はそこで初めて女性の嗜みを身に付ける。
つまり「お裁縫」の手解きを受けるのである。
「幸っちゃん。こうやって玉袋を縫うのよ。頑張ってね」
「お母ちゃん。でけた〜。アレッ、おはじき入れるところが無い〜」
「何してるのよ。口まで縫つちゃ袋にならないでしょうよ」・・・
片淵一丁目は!"女の階段に足を掛ける世界」であった。
■おはじき:
幸っちゃんは慌てて袋の口を解いた。
「これじゃ湯呑敷だよ。ねつ、ちいちゃん」
幸っちゃんは横で大人しく座っていた妹に声を掛けた。
ところが彼女、目を白黒させているではないか。
アレッ、目の前にあった赤のおはじきが無い!
「お母さん〜。大変!ちいちゃんがおはじき飲み込んだ〜」
お母さんが飛んで来た。「何見てたのよ、あんたは!」
お母さんはちいちゃんの両足を持って逆さに吊り、背中をバンバン叩いた。
するとおはじきが飛び出した。
「わああ〜ん」ちいちゃんと幸っちゃんは二人して大泣きした。
片淵一丁目は「びっくり仰天の世界」であった。
■綾取り:
次に、女の子は「綾取り(あやとり)」を覚える。
一本の紐の両端を結んで輪にして、両手の指に紐を引つ掛けたり、外したりして
「箒」や「お星さま」のような特定の物に見えるようにする遊びである。
「綾取り」には「一人綾取り」「二人綾取り」とあるが、
二人の時は交互に行う対戦方式なので、その駆け引きが難しい。
型を崩さずに、相手の手から剥ぎ取り、
自分の手に移すのであるが、ほどけてしまったら負け。
「幸っちゃん、もっと脇を上げてよ!」
「智ちゃん、無理言わないでよ。身体曲がらないのよ」
「ちよつと太ったんじゃない?運動不足で」
「ほっといてよ、親戚でもないのに!」
片淵一丁目は「アクロバットで戦う世界」であった。
■おままごと:
何と言っても女の子は「ままごと遊び」である。
それも毎日、おやじ•おふくろのやりとりを見ているので、ゴザの上での会話も生々しい。
「ああた、もうおよしなさいよ。お医者さんから言われてるでしょ」
「まだ一杯しか飲んでないよ」
「その一杯がどんぶりだから言ってるんですよ。ほんとにもう」
「お前もそんな顔して怒ると、皺が増えるよ。数えてあげようか」
「余計なお世話です」
「ちよいと、あなたたち。どんなままごと遊びしてるんですか!」
「あつ先生。お父さん役で入ってくれません?いまいち迫力に欠けるんで」
「冗談じゃありませんよ。うちで散々やって、
学校にまで持ち込むなんて、やです」
片淵一丁目は「バーチャルな映像が交錯する世界」であった。