一丁目の夕日 ~住田家の人々~ 【第二話】 お手玉と綾取り

      2024/02/06

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【 第二話 】 お手玉と綾取り

 

■お手玉:

 女の子の遊びと言えば、何と言っても「お手玉」である。
 男の子のように初めからボールを握って、投げ合うことはしない。
 柔らかいボール、それも中にはあずきを入れたふわふわの球である。
 処が、食糧難の時代に高価な豆を遊び道具に使うなど許されない。
 小川で小さな玉砂利を探すのだが、小さな女の子には重すぎる。
 そこでお母さんはへそくりの中から、何とか「おはじき」を買ってあげた。

 実は女の子はそこで初めて女性の嗜みを身に付ける。
 つまり「お裁縫」の手解きを受けるのである。
 「幸っちゃん。こうやって玉袋を縫うのよ。頑張ってね」
 「お母ちゃん。でけた〜。アレッ、おはじき入れるところが無い〜」
 「何してるのよ。口まで縫つちゃ袋にならないでしょうよ」・・・
 片淵一丁目は!"女の階段に足を掛ける世界」であった。

 

■おはじき:

 幸っちゃんは慌てて袋の口を解いた。
 「これじゃ湯呑敷だよ。ねつ、ちいちゃん」
 幸っちゃんは横で大人しく座っていた妹に声を掛けた。
 ところが彼女、目を白黒させているではないか。
 アレッ、目の前にあった赤のおはじきが無い!
 「お母さん〜。大変!ちいちゃんがおはじき飲み込んだ〜」
 お母さんが飛んで来た。「何見てたのよ、あんたは!」
 お母さんはちいちゃんの両足を持って逆さに吊り、背中をバンバン叩いた。
 するとおはじきが飛び出した。
 「わああ〜ん」ちいちゃんと幸っちゃんは二人して大泣きした。
 片淵一丁目は「びっくり仰天の世界」であった。

 

■綾取り:

 次に、女の子は「綾取り(あやとり)」を覚える。
 一本の紐の両端を結んで輪にして、両手の指に紐を引つ掛けたり、外したりして
 「箒」や「お星さま」のような特定の物に見えるようにする遊びである。

 「綾取り」には「一人綾取り」「二人綾取り」とあるが、
 二人の時は交互に行う対戦方式なので、その駆け引きが難しい。
 型を崩さずに、相手の手から剥ぎ取り、
 自分の手に移すのであるが、ほどけてしまったら負け。
 「幸っちゃん、もっと脇を上げてよ!」
 「智ちゃん、無理言わないでよ。身体曲がらないのよ」
 「ちよつと太ったんじゃない?運動不足で」
 「ほっといてよ、親戚でもないのに!」
 片淵一丁目は「アクロバットで戦う世界」であった。

 

■おままごと:

 何と言っても女の子は「ままごと遊び」である。
 それも毎日、おやじ•おふくろのやりとりを見ているので、ゴザの上での会話も生々しい。

 「ああた、もうおよしなさいよ。お医者さんから言われてるでしょ」
 「まだ一杯しか飲んでないよ」
 「その一杯がどんぶりだから言ってるんですよ。ほんとにもう」
 「お前もそんな顔して怒ると、皺が増えるよ。数えてあげようか」
 「余計なお世話です」

 「ちよいと、あなたたち。どんなままごと遊びしてるんですか!」
 「あつ先生。お父さん役で入ってくれません?いまいち迫力に欠けるんで」
 「冗談じゃありませんよ。うちで散々やって、
 学校にまで持ち込むなんて、やです」
 片淵一丁目は「バーチャルな映像が交錯する世界」であった。

 

 

 

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