「その時、君は?」【008】1965 Nov.8-17 ◎信貴山断食道場の思い出 二十歳の秋、私は断食道場にいました。

      2020/05/17

 「その時、君は?」――あの日あの時あの場所で、あなたは何をしていましたか? 竹田範弘さん発案のこの体験募集企画を編集していて、面白いことに気付きました。

 それは、今さらですが、それぞれの人生で「その時」と言えるハイライトは一度ではなく、何度もあるということです。誰からも共感され褒められるような、人に自慢できる「その時」もあれば、恥ずかしくて身がよじれる秘密の「その時」もある。つまりは、ウラ歴史みたいなものですね。今回はそんな私のウラ歴史…爆笑必至の「断食道場体験」を紹介しようと思います。

 

1965 Nov.8-17

 

「その時、君は?」【008】  市丸 幸子

 若い頃の私の人生のテーマの60%以上を占めていたのは、ダイエットでした。ほとんどの人には興味がないことかもしれませんが、本人は必死です。ここに紹介する断食道場の入所体験記は、追い詰められた私がとった最後の手段、その泣き笑いの記録です。

 ※原稿は長く25~6稿におよびますので、最初の3原稿以後は、毎月10日、20日、30日の朝10時に更新していこうと思います。気長に読んでみてくださいね。

信貴山断食道場の思い出1.もう断食でもやるしかない!

 奈良県にある、「信貴山断食道場」に行ってきました。といっても、ずいぶん昔、
学生時代のことですが…。

 当時私は、その頃流行っていた3日間のパイナップルダイエットやリンゴダイエット
などで身も心もボロボロに。2、3キロのダイエットに成功しても、その後反動で
前以上に太ってしまうというくり返しで、授業には出ていたものの人付き合いも面倒になり、
アパートでふて寝をしていました。

 もう、ダイエットを一人でやるのは無理!

 何かもっと、“問答無用”の状況に自分を追い込んで、人の力に頼ってでも徹底的に
やるしかないのかなぁ~と、心底落ち込んでいたのです。そんな時ふと目にしたのが、
信貴山断食道場の体験談が掲載された雑誌記事です。

信貴山の清らかな自然の中で五感をリフレッシュ!
胃腸をきれいにして、身も心も赤ちゃんみたいにリセットしよう。
忙しい日常を離れ、大自然に癒されながらの断食は、
自分と向き合う時間をくれる。感性が研ぎ澄まされて、新しい発見ができる。
そして、無理なくラクに毎日1キロずつの減量ができる。

などの言葉が、乾ききった喉を潤す清流のように、ゴクゴクと胸にしみわたっていったのです。

長い人生、今やるしかない!!

ガバッと起き上がった私は、食べていたポテトチップの袋をけ散らして、さっそく予約のTEL。
翌日には、信貴山の山頂に立っていたのです。

日頃はグズな私ですが、ま~その時の行動力は凄かったですね。もちろん、親にも友人にも内緒の、全くの単独ヒミツ行動でした。 

信貴山断食道場の思い出2.「カチッ」と断食スイッチが入る音がした。 

1965年、11月8日。大阪からJR、私鉄、ケーブルカーを乗りついで信貴山へ。
そこは、全山に広い境内をもつ朝護孫子寺という大寺院でした。

あたり一面は燃えるような紅葉、山麓には大小さまざまな堂塔が甍を並べ、ひときわ高くそびえ立つ本堂からは、おごそかな読経の声が降りそそぐように聴こえます。

ここで、昨晩調べた信貴山のデータがフェードイン。

Na.信貴山は大阪と奈良の県境にある、毘沙門天信仰の聖地。古くから霊験あらたかな霊山としてあがめられ、人々は山の彼方にあるという極楽浄土に手を合わせ、来世の幸せを願ったと伝えられています。
ちなみに毘沙門天は、七福神の中で一人だけ武装をしている 開運と財宝ザクザクの神様です。

エライところに来てしまったな! こんなところで、これから10日間の断食なんて
私にできるのだろうか!? 

不安と期待を胸に、参道をさらに歩くこと15分。ようやく、目的地の「信貴山断食道場」
に到着です。

道場は、簡素な療養所か民宿といったたたずまい。鬱蒼とした木立に囲まれて、華やかなチャラ
チャラ感などもちろんなく、道場の名にふさわしい雰囲気を放っています。

さぁいよいよだと思うと、再び不安がムクムク…。
山ごもり→修業→神かくし→拉致監禁→行方不明など、想像は良からぬ方向へふくらんで、
しばし立ちすくむ私。

さぁいよいよだと思うと、再び不安がムクムク…。
山ごもり→修業→神かくし→拉致監禁→行方不明など、想像は良からぬ方向へふくらんで、
しばし立ちすくむ私。

しかし、ここまで来たらもう引き返せません。ガラガラ~ッと扉を開くと、
その時「カチッ」と体のどこかで、断食スイッチが入る音が聞こえたのです。

信貴山断食道場の思い出3.え~っ!お金は全部没収なの? 

「断食ってファスティングのことでしょ?」って、よく聞かれます。
ウ~ン、そうなのかなぁ?

今はファスティングができる本格的リゾートホテルとか、高原のお洒落なロッジで週末ファスティングとか、エステまで備えたゴージャスな施設がいっぱい。
セレブなマダムや文化人の間でも、別荘に滞在する感覚でファスティングをするのが、ちょっとしたブームになってるみたいですが…。
でも、はっきり言って信貴山断食道場はまったく違います。

根本にあるのが東洋医学。「断食・食養・精神修養」を3本柱にした、あくまでも
「道場」なんですよね。

入場は随時で、特に決まったコースというようなものはなく、
3泊以上から、本人の希望で何日間でもOK。

料金は体験入場の3泊が22,000円、4泊で28,600円。(いずれも個室・食事つき)
5泊~9泊までが1日7,000円、10泊~20泊が1日6,800円とリーズナブル。徹底的な体質改善、精神修養をめざす長期入場25日間でも14万9,600円と、これなら普段の生活費とそれほど変わりないかも!
※記述の金額は現在のもので、私が行った頃はこの10分の1ほどだったと思いますが、記憶が定かではありません。

入場する時は、現金やキャッシュカード、お金に換えられる貴金属類などはすべて没収。事務所に預けるシステムです。

経験した人はあまりいないと思いますが、所持金すべてを没収されるというのは精神的に結構なショックです。誰も知らない土地だからなおさら、心細い気持ちになります。

でも実は、この状況こそが断食を成功させるポイントなのです。もしお金を持ったままだったら、正直なところ、私は3日目ぐらいで何か買い喰いをしてたかも知れません。

あ~、ポケットに100円札一枚でも残しておけばよかったと胸をかきむしりつつ、この完全な文無し状態がその後、人生最大の危機(笑)、軽犯罪寸前の爆笑事件を巻き起こすことになるのです。

 

 

 

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