Nederland dreamin' オランダ点描①

      2019/05/01

 

 

 

孫たちとオランダの休日

 アムステルダムの南西リセにあるキューケンホフ公園は、オランダ随一の花の名所。キューケンホフ城の跡地28ヘクタールを1949年に公園に作り変えた。チューリップ見物ならここをおいて他にはない。園内にはさまざまな形の花壇とその間を縫うように配された全長15キロメートルの遊歩道、池、6つのパビリオン、大温室、レストラン、カフェがある。

 訪れたのは2009年5月中旬。当時オランダに住んでいた上の娘が孫2人とアムステルダムのスキポール空港に出迎えてくれた。そのまま車で25分ほど郊外を走り、キューケンホフ公園へ。途中、所々に黄色い菜の花畑が広がり、花はほとんど摘み取られていたが、チューリップ畑もまだ残っていた。

目も眩む花の饗宴――キューケンホフ公園

 一歩公園に足を踏み入れると、鮮やかな色の洪水に驚き、咲き誇る花の圧倒的パワーに感動する。

 アンジェリーク(八重晩咲き)、オレンジ・プリンセス(八重晩咲き)、ニイガタ、ガーデンパーティー、プリンセス、ジュリエット、アラジン(ユリ咲き)、クィーン・イングリット、ガンダーズ・ラプソディー(一重晩咲き)など何百種類ものチューリップやヒヤシンス、ユリ、アイリスなどの花々が700万株以上植えられ、陽光を浴びて緑の樹々の間に咲き乱れている。

 点在する池には白鳥が浮かび、小川が流れ、噴水がある。18℃、爽やかな気持ちのいい気候。※孫の後ろに映っているのは、ギフトショップの木彫りのチューリップ。

◆1歳半の孫が嬉々として、ちょこちょこと走り回っている。

破産者も出たチューリップ狂時代

 公園は、3月中旬から5月中旬までの2ヶ月間開園する。あとの10ヶ月は開園の準備に当たる。期間中は世界中から観光客が集まる。開花時期の異なる花を並べ、植え付けの時期をずらして、常に満開の花が楽しめる。園内には色とりどりの木彫りのチューリップが売られている。我が家の玄関の飾り棚は、毎年春になるとこのチューリップが彩を添える。

 チューリップは1594年、原産国トルコからもたらされた。珍しい品種が投機の対象となり、17世紀は「チューリップ狂時代」とも呼ばれ多数の破産者が出た。

 3~4月、公園の外に球根をとるためのチューリップ畑が広がる。視界いっぱいにチューリップの花の帯ができて、それは見事だという。

 1週間後には、下の娘が大阪から到着し、2回目のキューケンホフ公園を楽しむ。ヨーロッパの人々にはアジア人の幼子が珍しいのか、孫の写真を撮りたいと何人にも頼まれる。

古き良きオランダの暮らしが偲ばれるキンデルダイク風車村

 キンデルダイクは、オランダ最大規模の風車が集まる場所として世界遺産に登録されている。1740年前後に造られた19基の風車は1950年まで実際に稼働していた。

 ロッテルダムの南東20キロメートル、風車の村キンデルダイクに着いたのは5月下旬、平日のお昼頃。街を少し歩くとノルド川に出る。目の前が開け19基の風車群が臨める。広々とした緑の牧場の運河沿いに風車が3列に並んでいる。

◆運河沿いに並ぶ風車群の眺めは壮観。オランダの治水技術の象徴として、1997年、世界遺産に登録された。

のんびりとカナルクルーズ

 毎年4~10月に運河巡りの船が運行され、水上からの眺めを楽しむことができる。この日船はすいていて、座席が埋まったのは3分の1くらい。一番前に席をとる。立ち並ぶ風車が川面に映り、美しい。運河を渡る風が心地よい。孫が岸辺を歩く人や釣り人に手を振ると、振り返してくる。隣席のオランダ人がキャノンのビデオカメラを回し続けている。

 30分ほどの遊覧の後、下船。運河沿いの道は、鴨や水鳥の糞でいっぱい。足の踏み場もない。19基はすべて動態保存されており、内部を見学できる風車がある。

 その1つに入ってみる。思っていた以上に巨大で驚く。今でも風車守りの家族が住む。排水の仕組みや風車を守ってきた人々の暮らしを見ることができる。急な階段を昇る。窓越しに目の前を、長さ29メートルの羽根が北海から吹き付ける風を切って、力強く回転する。ビュン、ビュンとびっくりするほど大きな音でその迫力に圧倒される。

オランダの国土を造ったオランダ人

 「世界は神が創ったが、オランダはオランダ人が造った。」といわれる。
オランダの人々にとって風車は、単なる動力ではなく、歴史を刻んできたシンボル的存在だ。風車は今も粉ひきや油搾りなどにも使われているが、オランダの国造りに貢献したのは、排水用の風車だ。国土の4分の1が海抜0メートル以下のオランダでは、古くから水との闘いが続いた。工夫を重ね、風を利用して羽根の回転で水を汲み上げ、陸地をつくり出してきた。

 その後、蒸気機関の発明をきっかけに急速に姿を消し始め、かつては1万基近くあった風車も、今は1000基に満たない。多くの人達が保護に立ち上がり、保存、維持する活動が定着。毎年5月の第2土曜日を「風車の日」と定め、全国各地の風車が一斉に回される。風車の回る風景はオランダ人の心の原風景である。

 干拓事業を進める中で、風車の並び方にも様々なアイデアが生まれた。例えば、干拓地と水路の水位の差が大きいと、1基の力ではとても十分な高さまで水を上げることができない。何基かの風車を並ばせ、バケツリレーをするように、水位の差を調節した。並んだ風車が一段ずつ水を押し上げる。風車が3基ならば3連式、4基ならば4連式というように。

 風車はその羽根の止め方によって様々な意味がある。垂直な十字で止まっていれば「大休止」、斜めなら「小休止」。そのほか「祝い事」「弔事」などを伝えるサインとしても使われていた。

村全体が博物館――ザーンセ・スカンス

 2008年7月半ば、アムステルダム近郊のコーフ・ザーンダイク駅へ。地図を頼りに、ザーンセ・スカンスへ渡る橋まで行くと、若い地元の女性が声をかけてきた。橋は通行止めで、逆方向からフェリーが出ているという。途中、道標が逆になっていたので変だな?と思っていた。オランダの人は概して観光客に親切である。

◆コーフ・ザーンダイク駅看板

 ザーン川300メートルを5分で渡る。17世紀そのままの風景が再現された小さな村に5基の風車が点在し、川沿いには古い家を移築したザーン地方特有の深緑の板壁、白い窓枠の家々が連なっている。童話の世界のようなのどかな風景。水路にはアヒルや鴨がのんびり泳ぎ、牧草地には牛や羊、ヤギが草を食んで、村全体が屋外博物館になっている。

◆村の中にはザーン地方の伝統的家屋(深緑の壁に白い窓枠が特徴)が建ち並び、商人や漁師の家、船着場、跳ね橋、チーズ工房やチョコレート工房など、17、18世紀の町並みが再現されている。

 レストランへ。屋内には空席がなく、水辺のテラス席へ。時々風が吹き、小雨も落ちてきて寒い。6ヶ月の孫をベビーカーに残し、妻と娘と小学校1年の孫がパンケーキを買いに行く。娘はオランダに来て以来4か月、ずっと食べたいと思っていたという。巨大な皿に薄く伸ばしたホットケーキのようなもの。チーズやハムをトッピング。思いのほか美味しい。娘のチョコやクリームをトッピングしたものと分け合う。4人分で€35(6000円)と結構高い。屋内の客が一度に去り、中に入る。

◆パンケーキ チョコとクリームのトッピング

孫の木靴を買う

 「木靴博物館」を併設した「木靴工房」へ。色とりどり、大小さまざまな木靴が壁にびっしり飾られている。木を削る実演を見る。粗削りの木靴が1個€1.まだ湿っている。孫が欲しがり、出来上がった無地の靴を買う。€14。色付きは€22~3。

◆木靴削りの実演

 中国人の団体が2組来て、騒がしくなり外に出る。撮影スポットへ。後から来た中国人の夫婦が場所を独占。他の人を全く気にかけず、長い時間をかけてお互い様々なポーズで、撮り合っている。迷惑この上ない。

 5基の風車のうち「猫の風車」と「マスタードを作る風車」は今も稼働していて、「猫の風車」は内部が見学できる。受付の女性が6ヶ月の孫が可愛いと妻や娘と話している。


◆孫たちはどこに行っても「可愛い、可愛い!」と大人気。(じいじの気のせい、空耳ではない)

 巨大な歯車が粉を挽く様は迫力がある。急な階段を孫と2階、3階、4階へと昇る。5時、風車が止まる。孫守りをしていた妻にねだって上の孫が再び階段を昇って行く。施設はどこも5時で閉まる。

◆猫の風車

◆染料の粉ひき

 村の中には、風車のほかにも「ザーン地方の商人の家」「チーズ工房」「風車博物館」、18世紀に時計の生産地だったザーン地方の壁掛け時計などを展示する「オランダ時計博物館」がある。1753~1956年にベーカリーとして使用された建物がそのまま博物館になった「ベーカリー博物館」もあって、オランダの代表的な風物を楽しむことができる。

◆チーズ工房

◆オランダ時計博物館

 フェリー乗り場に戻るとちょうど船が出るところ。駅に着くとすぐ列車が入って来た。朝早く出て来たので、孫たちはすぐに寝てしまった。

 

 

 

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