研究を支えた「前向きに不撓不屈」の精神

      2016/06/20

石黒 悦爾

同窓会の幹事の皆様、ご無沙汰して申し訳ありません。3年5組の石黒です。

市丸幸子君には、筆不精の私を脅迫しての投稿依頼に負けて筆をとることにしました。

福高時代の思い出は、「数学研究部」で竹田氏、住田氏や黒川氏と数学の公式について様々な観点からのすう式2解法について楽しんだり、「合唱部」に時たま顔を出しては歌ったりしたことが挙げられます。ちなみに合唱部の顧問の江口先生(故人)には、私の結婚式に女房の親戚として参列してくださり(驚きました)、新郎側が福高の校歌を、新婦側が甲南高校の校歌を合唱する際には、伴奏までしていただきました。

不撓不屈の精神を育んだ福高時代

九大農学部では農業機械を学んだのですが、鹿大農学部では農業物理研究室の助手として赴任し、40余年を教育・研究に携わりました。

その間私は、「農産物の物理的殺菌」について紫外線とガンマー線を用いた微生物の殺菌機序を研究、以後これらの電磁波特性を利用した、リモートセンシング技術を農業に利用する研究・教育に携わってきました。このように、大学で学んだ分野、鹿大での異なる研究分野に向き合うことができたのは、高校時代一緒に学び遊んだ学友から得られた、「時間厳守」と「前向きに不撓不屈」という精神が大きく作用したものと感謝しています。

冷戦の遺物を農業支援に

リモートセンシング技術は、太陽から放射される電磁波を地上対象物が反射する際の反射特性を解析し、対象物の特性を判読する技術です。米ソの冷戦時にソ連の小麦収量予測を人工衛星で行い、ソ連の軍事費の削減を目指すという、軍事目的に開発された技術でした。私はこの技術を農業の営農支援、すなわち気象条件により変動する農作物の生育に対応した肥培管理に適用することを研究してきました。

むぎの穂2

農産物収量の安定化に貢献

水稲の肥培管理は基本的には窒素の施肥という形で示されます。水稲の生育ステージは同一の肥料条件の圃場でも気象条件に大きく左右され、水稲が着花し子実を結実させるトリガーとなる時期の決定が困難です。

窒素は水稲の葉面積を増加させるとともに、葉内の葉緑素の量にも影響を及ぼします。そこで、水稲の生育期間中に可視域と近赤外域の分光反射率を測定し、葉面積と葉緑素の量に対応する波長域を定量的に解析します。

人工衛星のデータ、航空機ならびにドローンを用いた画像についてこれらの結果を適用し、水稲の葉面積と葉緑素の量を定量化し、肥培管理につなげます。実際は、追肥の必要性の有無の決定、ならびにどの時期に窒素の吸収を制限させるための中干を行うかという作業情報の決定に対応します。このような非破壊・非接触な特性を有するリモートセンシング技術は、高品質・高等級、収量の安定化につながる基礎資料を提供するわけです。

ヤップ島の学術プロジェクトに参加

茶の栽培でも、甘い茶を生産するため、茶樹の吸収量を超えた窒素肥料を投与し、亜硝酸窒素等による環境汚染を引き起こしている場合が見られます。これらの弊害を防止するため、茶樹をリモートセンシングでモニタリングし茶葉の生育状況を把握すると、適期・適量な窒素の施肥が可能となり、環境にやさしい持続的な茶業に繋げることができます。

ヤップ島での現地調査風景

ヤップ島での現地調査風景

また、沿岸部の水深推定にもリモートセンシングは有益です。海面の色の変化は水深の変化に対応するという経験則に基づきます。海中に入射した太陽光は海底に到達するまでに海中で減衰された後、海底で反射されるという現象を、海面の反射率と水深の関係を定量化することにより、水深の推定が可能となります。鹿大が水産学部の練習船を用いて、ミクロネシアのヤップ島で学術プロジェクトを立ち上げました。

これを検証するため、(実際は、3食付きの費用が4週間で4万円が魅力!)、研究室の2名の学生とともに参加しました。現地でボートをチャーターし、沿岸部の海面の分光反射率とロープを投錨し水深を測定すると同時に海水を採取し、濁度(光の透過率)を求める調査を行いました。

学生たちに囲まれて

私の研究は個人で達成できるものではなく、研究室の学生には随分支え助けてもらいました。私はノンドリンカーで、喫煙本数が半端でなく学生を煙に巻いていましたが、一緒に汗を流しながらの研究、余暇には学生とテニスに汗を流し、年に数度はボーリングで勝敗を競うと大学生活は非常に楽しいものでした。

現在は、ドローン等を用いた斜面崩壊予測の可能性について、鹿児島の測量会社の技術顧問として地元に貢献するよう微力を注ぐとともに、卓球(テニスは脚力の衰えで無理になりました)に汗を流しています。

図7図5

 

 

 

 

 

同窓生は、小田紘氏が近くに住んでいますが、禁煙できないため現在は年賀状友です。最後になりましたが、皆様の健勝を祈念して筆をおきます。

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