谷崎の勘違いを「話のタネ」として楽しむのは、それなりに面白いのですが、困るのは、この本を読んだ人がこの歌を和泉式部の作だと信じ込んでしまうことです。現に私の周囲にこの話をしても、「あの谷崎潤一郎がそんな間違いをするもんか」と、私が誤った指摘をしていると思う人がいるのです。
最初の雑誌発表以来90年近く、だれも間違いを指摘しなかったのだろうか。文庫本になってからでも、25刷の間になぜ修正が行われなかったのだろうか。この間、誤りを指摘する人が皆無だったとは信じられません。全国の競技かるたをやっている児童・生徒だったら、誰でもすぐ気が付きます。なぜ、指摘を受けた編集者も出版社もだんまりを決め込んだのでしょうか。不思議でなりません。
文庫本出版元に問い合わせの手紙を送りましたが、5年間回答はありません。
やっぱり、大文豪谷崎潤一郎は、誰も間違いを指摘できない「不可侵存在」なのです。
かくして、この間違い文庫本は今も店頭に並んでいます。嗚呼。
誰か、私の悩みを解消してください。