初夏のスイス・ゴールデンルートを巡る旅①

      2023/07/29

◆氷河特急

【いつものようにスライドショー以外の写真は、クリックで拡大写真を見ることが出来ます。 なお、プリントされたアナログ写真を、デジカメで撮影したデジタル写真を使用しており、編集部で可能な限りの補正はしましたが、画質が通常よりも劣ることをご容赦ください。】

 

 

 

ヨーロッパアルプスに憧れてスイスへ

 長期の休暇がとれるようになったかれこれ四半世紀前、山はまだ雪深き初夏のスイスを10日間かけて巡った。
 ヨーロッパアルプスに憧れていた妻に誘われての旅だった。その頃の私がスイスに関して知っていることと言えば「アルプスの少女ハイジ」やマッターホルンくらいで、ほとんど予備知識もないまま、1999年6月12日昼エールフランス291便で関西空港を飛び立った。
 パリでスイス航空709便に乗り継いで、同じ12日の夜9時雪混じりの雨が降るスイスのチューリッヒに到着。郊外のホテルへ。ヨーロッパを訪れるのは8年振り2度目。

◆フランスのシャルル・ド・ゴール空港
中央白い機体はコンコルド(超音速)機 

 6月13日(日)、爽やかな小鳥の声に目が覚める。6時朝食、8時前にホテルを出発。昨夜とは打って変わってよく晴れている。途中ヴァ―レン湖畔で小休止し、バスで1時間半。

左)チューリッヒからリヒテンシュタイン公国へ ヴァ―レン湖前、右) ヴァ―レン湖と対岸の岩山

 国境のライン川を渡り、9時20分リヒテンシュタイン公国の首都ファドーツ着。

 リヒテンシュタイン公国はスイスとオーストリアに挟まれたヨーロッパ第4の小国。人口は3万2千人ほど。趣味で切手収集を始めた小学校高学年の頃からリヒテンシュタインの名前は知っていた。美しいデザインと高度な印刷技術で切手マニアの間では有名だが、現在では高度な工業製品や金融分野でも存在感を示している。

 1719年にファドーツとシェレンベルクが侯国に加盟し、現在のリヒテンシュタインの原形を形成。第一次世界大戦以降中立を守っている。立憲君主制で、スイスのクール司教区に属し、住民の90%がカトリック教徒。公用語はドイツ語。

 背後の丘の上にファドーツ城が聳える市内を散策。お祝い事か? 民族衣裳に着飾った人たちが集う。郵便局を見かけて、美しい切手を求める。

左上下)リヒテンシュタイン公国首都ファドーツ、右) 民族衣裳に着飾った人たち

 

アルプスの少女ハイジの舞台へ

 

 10時20分、スイスのマイエンフェルトへ。「アルプスの少女ハイジ」の舞台となった所。「ハイジ」は、1880年スイスの女流作家ヨハンナ・シュピリによって著された。50ヶ国語以上に翻訳され、5000万部を超え世界的なベストセラーになっている。ハイキングコースが整備され、ぶどう畑を抜け、牧草地を進むとハイジの泉に至る。地元の子供たちが造ったハイジの像がある。のんびり草を食む牛や羊、アルプスの山々、風に揺れる樹々。ハイジの家やハイジ博物館で物語の世界に浸ることができる。

左)スイス東部マイエンフェルト ハイジの泉、右上下) ハイジの里

 11時20分ソリス橋へ。氷河特急が通る石造りの橋をバックに写真を撮る。はるか下方に白濁した川が勢いよく流れている。

左)氷河特急の通るソリス橋、右) ソリス橋の下を流れる川

◆スイス東部グラウビュンデンアルプス

 高山植物が咲き乱れるユリア峠(2,284m)で小休止し、峠を下って、スイス南東部に位置する高級アルペンリゾートのサンモリッツへ。

◆ユリア峠2,284m

左) 高山植物が咲き乱れるユリア峠、右上下) 高山植物

 

高山植物が咲き乱れるウインタースポーツの中心地サンモリッツへ

 

 サンモリッツは、1928年と1948年の2度にわたって冬季オリンピックが開かれたウインタースポーツの中心地。標高1,775mとスイスのリゾート地でもひと際高地にあり、年間を通じて爽やかな空気と太陽に恵まれている。雪解けが遅いため夏が短く、冬の訪れが早い。

 昼食の後、フリータイムとなりサンモリッツ湖畔を歩く。1時間もあれば一周できる。湖畔には様々な高山植物が咲き乱れ、爽やかな微風のもと心地よい散策となる。裕福な国で、犬もゆったりして人懐こい。妻が呼ぶとすぐにとんで来て、身を摺り寄せてくる。妻は犬に好かれる質でどこに行っても犬の方から寄って来て、まとわりつく。

左) スイス南東部の町サンモリッツ、右上) サンモリッツ湖。右下) サンモリッツ湖一周の散策に出発

左上)サンモリッツが始発の氷河特急 車体の赤い色が風景によくマッチしている、
左下) サンモリッツ湖畔 豊かな国スイスでは犬もゆったりしていて人なつこい、
右) サンモリッツ湖 中央の山はPiz Rosatsch 3,123m

左)右上) サンモリッツ湖畔、右下) サンモリッツは標高1,800m 様々な高山植物が咲き乱れていた

高山植物:スライドショー(横7枚、縦1枚)

 湖の後方にはピッツ・ナイールなど3,000m級の雪山がいくつも聳えて、絵のような風景が楽しめる。
 ツァーの同行者のなかにはケーブルカーでピッツ・ナイールに登った人もいる。
 町の西部のバート地区、ドナウ川支流のイン側沿いの教会では日曜の午後の礼拝が行われていた。
 街の中心部ドルフ地区を散策。標高は1,830mもある。石造りの大きな建物が軒を並べ、高級ブティックや時計店などが多く、都会的な雰囲気が漂っている。

左) サンモリッツの町 後方の山はピッツ・ナイ―ル3,057m、右上下) サンモリッツ湖畔

左) サンモリッツ湖畔の教会、右上) 教会の中では日曜の午後の礼拝が行われていた、右下) 湖畔の教会とお花畑

サンモリッツ湖畔:スライドショー(横4枚)

 ホテルへの道の途中にセガンティーニ美術館があったが、うっかり見落としてしまい入館できなかった。セガンティーニの絵が観られたのに、何とも悔やまれる。

 夕方6時前、ホテル・ヨーロッパへ。犬もいっしょに泊まれるホテルで、飼い主に伴われた犬がチェックインしているところに出くわせた。犬は素泊まりで5スイスフラン(400円)、食事つきで20フラン(1600円)という。

 スイスでは、レストランでも商店でも概して店員は愛想がない。それに比べて犬たちの愛想はいい。ヨーロッパの犬には人間と共存していくうえでの厳しい条件がある。子犬は数週間の厳しい訓練を受け、大人しい性格のものだけが育てられる。スーパーや銀行の入口で、つながれていなくても人恋し気に行儀よく座って飼い主を待っているのをよく見かける。店やレストランの中まで飼い主といっしょに入って来るし、列車やトラムの中でも大人しく座っている。実によく躾けられていて感心する。

 ホテルでの夕食。我々を歓迎して「知床旅情」や「琵琶湖周航の歌」が生演奏された。その日の宿泊者の国の曲を演奏しているようだ。コンソメスープ、白身魚、ポテト、ニンジン、サラダに、デザートはアイスクリーム。白ワインのハーフボトルが9.5フラン(760円)。
 スキー客用に浴室には衣類の乾燥機がついている。

左) サンモリッツのホテル 犬もいっしょに泊まれる、中・右) ホテルでの夕食

 

世界一遅い氷河特急のパノラマカーから車窓の景色を楽しむ

 

 旅の3日目、気温7℃。雨混じりの雪が降っている。7時に朝食をとり、8時半ホテルを出発。寒くて冬の服装。10分でサンモリッツ駅へ。切符売り場には様々なお土産が置いてある。

左)右上) サンモリッツ駅と氷河特急、右下) サンモリッツ駅の売店

 9時半氷河特急が出発。ライヒエナウ、ディセンティスを経てアンデルマットまで150km、4時間の夢の旅が始まる。ほどなく天気は回復し、時々晴れ間が広がる。

 氷河特急は、スイスの二大山岳リゾート東のサンモリッツと西のツェルマットを結ぶ鉄道。レーティッシュ鉄道、フルカ・オーバーアルプ鉄道、ブリーク・フィスプ・ツェルマット鉄道の3つの鉄道会社をつないで、全長280kmを8時間かけて走る世界的に有名な観光列車。世界一遅い特急ともいわれ、時速は30km台。スイス観光には欠かせない存在で、サンモリッツ、アンデルマット間が最も見どころが多い。

 ファーストクラスのパノラマカーは景観を目いっぱい楽しめるよう天井いっぱいにガラス窓が広がる。車窓には次から次に雄大な氷河や白銀の山々、放牧場、お花畑や可愛い集落、小さな教会を囲むような村が現れて、その度に乗客から歓声があがる。沿線のどんな小さな集落にも教会があり、感心する。

左) 氷河特急沿線の民家、中) 沿線の風景 どんな小さな集落にも教会がある、右) 氷河特急ファーストクラスの車内

 エンガディエンの谷をイン川に沿ってしばらく走った後、アルプスを越えるトンネルとしては一番の高所、標高1,820mのアルブラトンネル(長さ約6km)を通過。トンネルの上のアルブラ峠(2,312m)は分水嶺として知られる。
 南側に降った雨はイン川からドナウ川へ流れ黒海に注ぎ、北側に降った雨はアルブラ川からライン川に流れ北海に注ぐ。

 トンネルを出ると川に沿って急勾配を下り、深い谷へと進む。13kmの間に416mも下る。この間に3連続のループ線がある。ダヴォス方面への分岐点を過ぎ1つ目のトンネルを抜けると、きれいなカーブを描いた石橋ランドヴァッサー橋を渡る。1903年完成。川床からの高さ65m、長さ136m。ローマの水道橋に似た美しい橋はスイスの代表的な景色として紹介されている。渡る少し前から予告の車内放送が流れ、乗客は皆身構える。短い時間で残念ながら列車の窓からはこの景観の全景を見ることはできないが、一部分でもカメラに収めて満足する。車窓の右、左に次々に絶景が現れ、歓声がどよめく。おばちゃんたちの大阪弁の賑やかなおしゃべりがスイスの上品な雰囲気を少なからず損ねているが…。

 車内販売のワゴン車が回ってくる。飲み物やサンドウィッチ、氷河特急のバッジやガイドブックとともに名物の傾いたワイングラスが売られている。列車が急勾配を上り下りするので、テーブルに置かれたグラスに注がれたワインがこぼれないように傾いて作られている。記念に1客求める。

左) 氷河特急、中) 氷河特急の沿線、右) お土産の傾いたワイングラス

 やがて左手ユリア川とアルブラ川の合流地点に、1652年に完成したサンクト・シュテファン教会が見えてくる。アルブラ谷の最も美しいバロック教会といわれる。

 高さ89mの石橋を渡るとシュン渓谷が始まり、垂直の崖が続く。100m下を流れる川を見ることはできない。列車はトンネルと鉄橋が続く断崖絶壁の中腹を走り、ボナドーツ平原を過ぎてライン川との合流地点ライヒエナウに達する。

 11時、クラシカルな雰囲気のダイニングカーに移動。日本ではほとんどなくなってしまった食堂車。キッチンからできたての料理が運ばれてくる。スープ、サラダ、羊肉とお米を炒めたメインにデザート。アルプスの景色を眺めながらボリュームたっぷりの昼食を楽しみ、夢のような時間を過ごす。白ワインも料理も美味しく、食欲も進む。メインを食べ終わった頃、陽気なウエイトレスがおかわりを勧めて回るがさすがにこれ以上は食べられない。満ち足りた気分で12時15分パノラマカーに戻る。

◆食堂車での昼食

 機関車をつけ替え、急勾配をぐんぐん登っていく。メデル氷河やフアネラの貯水ダムの堤防を見る頃には森林限界を越える。氷河特急全線で最も標高の高いオーバーアルプパスヘーエ峠(2033m)を通過し、オーバーアルプ湖にそって進む。雪崩止めのトンネルを抜けると下り坂にさしかかり、フルカ峠が遠望できると列車はアンデルマットの村に向かって急勾配を下っていく。1時50分アンデルマット(1433m)着。

左) 氷河特急の沿線の町、中) ランドヴァッサー橋(スイス現地で求めた氷河特急ガイドブックより)、
右) オーバーアルプ湖にそって走る氷河特急(     〃      )

 駅舎を出たあたりで同行の老人が列車にカメラの交換レンズ2本を入れたバッグを忘れたことに気づいて、急いで取りに戻ったがバッグは消えていた。毎年、写真を撮りにスイスを訪れているという老人、肩を落として残念がっていた。

 アンデルマットは、南北のアルプス越えと氷河特急と同じルートの東西の交通路の交差点で、古くから宿場町として栄えてきた。

◆アンデルマット着 

 

- 初夏のスイス・ゴールデンルートを巡る旅(2)へ続く-

 

 

 

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