信貴山断食道場の思い出 4・5・6

      2020/05/17

1965 Nov.8-17

「その時、君は?」【008】 市丸 幸子

 

信貴山断食道場の思い出4.質問攻めの断食デビュー

別館にある個室に案内されて、いよいよ断食生活のスタートです。

部屋は4畳半の和室にカーペット。
片隅に寝具一式、小さな文机と卓上スタンドなどが置かれ、簡素だけど清潔な印象です。
窓からは木立を透かして柔らかな秋の日差しが降りそそぎ、遠くには紅葉を始めた
山々が眺められます。

夕食は4時からということで食堂に入っていくと、すでに12~3人の
先輩たちが思い思いにくつろぎながら食事を待っていました。

食事といっても、ほとんどの人は本断食中のため、1杯のくず湯や実のないみそ汁
を大切そうにすするだけ。そんな中で、新参者の私の食事(本断食に入る前の準備食:玄米の
三分食にゴマをかけたもの、豆腐のみそ汁、ひじきの煮付け、キューリのぬか漬けなど)
は注目の的。

◆1日目の夕食は玄米の三分食。明日からいよいよ本断食に入ります。

「今日の献立はな~に?
わ~お豆腐の味噌汁に、お揚げとヒジキの煮付け、美味しそうね~!」

気さくなおばちゃんのひと言が合図になって、あとは怒涛の質問攻め!
「どこから来たの?」 「幾つ?」 「断食は何日間?」
「え~、ダイエットのために来たの? いいねぇ、若い人は!!」
「ここの玄米はね、大きな圧力釜で炊くから美味しいでしょ、滋養があるし…」
「玄米はよく噛んで食べるといいのよ、ひとくち80回くらい、よく噛んでね!」

改めて自己紹介をするまでもなく、親切な皆さんにワッと取り囲まれて、
嬉しいけどチト恥かしい、不思議な断食デビューとなったのでした。

 

信貴山断食道場の思い出5.恋に疲れた雪国美人が見る夢は?

食事のあとは、横に座ったお姉さんに誘われて、彼女の部屋におじゃますることに。

◆宿泊の一人部屋はこんな感じ

彼女は新潟から来た人で、しっとりと落ちついた雰囲気で道場の中でも目立つ存在。
大人っぽく見えるけど年は5つ上の25歳。私の南国系のペコちゃん顔とは大違いの雪国美人
です。スリムだし、肌が透き通るように白く、女の目から見てもうっとりするような人で、
断食なんかする必要ないように見えるんだけど…。

聞いてみると、
長く付き合ってる彼氏との関係が煮詰まっていて、「もう、疲れた!」と
いう状態らしい。ちょっと距離をおいてクールダウンすれば、
「何かが変わるんじゃないか」と、断食にやって来たのだそうです。

今日が本断食2日目で、今が一番苦しいとのこと。
「彼とは高校時代からず~っと一緒だったから、淋しくてたまらないんじゃないかと
心配だったけど、この3日間彼のことを考えるどころが、夢の中にだって出て
来やしないのよぅ。昨晩なんかね、彼氏の代わりにケーキやチョコレートに囲まれて
ニコニコしてる夢を見たわよ」ですって。

@^▽^@キャハハ。危うし、彼氏!

そして彼女が見せてくれたのが、
バッグの中から取り出した大量のタバコ。(断食中はタバコも禁止)
[本当はタバコも没収なんだけどね…内緒だよ」とニッコリ笑うお姉さんは、
みかけによらずとってもお茶目な"不良"なのでした。

 

信貴山断食道場の思い出6.頭痛・眠気・脱力感は「排毒」のサイン

2日目からいよいよ本断食ですが、一応朝夕2回の食事はあります。

希望によってリンゴジュース、片栗粉を椎茸のだし汁で溶いたもの、実の入っていない
みそ汁などが選べ、これだけが命の綱です。
あとは、朝の清掃のあとに飲む番茶だけ。空っぽになった体に、食材の(といっても
固形物はカケラもない)ほのかな香りや甘みがじんわりとしみ渡って、一杯のお茶やだし汁
が、あんなに美味しくありがたく思ったことはありません。

昨日は初対面の人たちが、新入りの私の食事にコメントをしたり、
チラチラ見られることに驚いたけど、逆の立場になると、自分も同じことを
したりして…(笑)。(●_●)ジーッ

本断食1日目は空腹感をほとんど感じなかったのですが、苦しかったのは2日目でした。
朝起きた時から全身がだるく、着替えをしたり歯ブラシを口まで持っていくのも
億劫な感じ。頭はズキズキ、立ちくらみはするし、何だか無性に眠いし…。

で、考えることは食べ物のことばかり。はっと気が付くとノートに食べ物のイラストを
描いてたり…。餃子、炒飯、焼肉、ロールケーキ、鍋焼きうどん、うな重、塩豆大福…。

言っておきますけどね、皆さん、こんな非常時の妄想には、「牛肉の赤ワイン煮」とか
「フォアグラのバルサミコソース」などのグルメ料理は登場しません。 
人が追いつめられた時思い浮かべるのは、炒飯とかトロトロチーズのオムカレーなどの
B級グルメばかり、つまりいつも食べてるヤツですね。

◆断食中の妄想には、こういうゴージャスな料理は出てきません。(笑)

断食2日目くらいに突然現れるこうした体調不良は、体内に溜まっていた毒素や老廃物が
押し流され、「排毒=今で言うデトックス」が始まったサインなのだそうです。

「排毒!」 何て素敵な響きの言葉でしょう!!

私は道場の窓から福岡の方に向かって、
「お母さ~ん、お父さ~ん。幸子は今ね、仕送りしてもらったお金で勉強もせず、
こんなところで「排毒」をしてるんだよ~! ありがとね~!」
と手を合わせたのでした。(ウソ)

 

 

 

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