奈良国立博物館と東大寺の間に、国の名勝に指定された池泉回遊式の日本庭園「依水園(いすいえん)」がある。近鉄奈良駅から歩いて11分。
江戸時代前期に奈良晒を扱う御用商人、清須美義清が整備した前園が最初に造られ、明治時代に実業家関藤次郎が、東大寺南大門や春日山を借景とした後園を造った。
前園、後園ともに大和川支流吉城(よしき)川の水を引いている。海運業で財を成した中村家が1939年に買い取り、前園と後園を合わせた形に整備した。紅葉の時期に訪れたことがあるが、それは見事な景観であった。入園料が寧楽美術館と合わせて900円と高く、この時期訪れる人はまばらで、私たちの他には中国人の1カップルと、家族連れ1組のみ。静かな環境でゆっくり巡ることができた。木瓜(ぼけ)の花の赤いつぼみが膨らみ始め、10月桜がたくさんの小さな花を咲かせていた。
中村家所蔵の美術品を展示するため寧楽美術館が依水園に隣接して建設された。この日、美術館では、「三千年を生き延びた稀有の文字 漢字―形と美―」展が開かれていて、貸し切り状態で、1.図形から文字へ 2.権威を示す文字 3.文字の意匠化 4.書体の発展 5.実生活の中の文字 6.受け継がれる古文字 の50点余の品々と常設展示の銅造聖観世音菩薩や梶尾緋佐子の「琉装」など10数点を鑑賞する。