万葉集から演歌まで 好きな詩・短歌・俳句・歌詞を教えて下さい。  ( 008・009 防人の妻・李白 黒川勝利 )

      2021/05/23

黒川 勝利

 

 白水君の新企画への投稿です。市丸さんの「防人の歌」投稿に便乗して、私の好きだった防人に関する歌を。ただし、防人本人ではなくその妻が詠んだ歌です。

■作者不詳(防人に夫を送り出した妻と思われる) 万葉集 巻20・4425

■時代背景 防人とは、飛鳥時代から平安時代にかけて課せられていた税の一つで、北九州の警護を担当する仕事であった。任期は三年。防人として働いていても、その間他の税が免除されることはなく、残された家族にとっては若い男の働き手を奪われるうえに、税は払い続けなければならす、大きな負担であった。

■現代語訳 「(今度)防人として北九州に行くのはどちらのご主人かしら?」と周りの人が尋ねているのを見ると羨ましい。夫が(防人として)行ってしまう私の気持ちを知りもしないで。

 

 これと同じように、西域に赴いた兵士の妻の悲しみを歌った漢詩が、李白の「子夜呉歌」ですね。
 この詩はたしか高校時代に漢文で習いました。李白の詩は他にもいくつか習ったと思うが、これが一番好きでした。そして李白の詩で今思い出せるのはこれだけです。

 

■作者:李白 中国、盛唐期の詩人。詩聖杜甫に対して詩仙とも称される。

■時代背景 
玉門関(ぎょくもんかん)は、長安の北西約2000km、甘粛省敦煌 (とんこう) の北西約100kmのゴビ砂漠におかれた関所。シルクロード交易の中継地点であり、河西回廊の重要な防衛拠点であった。当時侵略してくる異民族を討伐するために男たちは遠征していた。

■現代語訳
長安の夜空には、ぽつんと一つの月がかかっており、
あちこちの家々から砧(きぬた)を打つ音が聞こえてくる。
秋風は絶えまなく吹き続け、月光、砧の音、秋の風すべてが
玉門関に遠征している夫を思い慕う情をかきたてる。
いったい、いつになったら夫は異民族を平定して、
遠い戦地から帰ってくるのであろうか。

 

 でも、同じ歴史でも逆の立場から見れば、全く違う真実が見えてきます。

 思えば、西から玉門関を越えて中国に向かった西域諸民族の兵士の妻もまた、長安の女性と同じように、張り裂けるような気持ちで夫の安否を気遣っていたのでしょうね。

 

 

 

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