スイスアルプス フラワーハイキング(上)

      2019/11/07

 

 

奇跡のような幸運に恵まれたアルプス行

 2019年7月11日から19日まで、9日間の日程でスイスの山歩きを楽しんできた。
 夏のアルプスは3回目。初回は、丁度20年前。結婚25周年の1999年6月下旬。期待を上回る素晴らしい旅で、すっかりその魅力にとりつかれた。4年後の2003年7月上旬に、また、似たようなコースを巡る。いずれも10日間。
 2回の旅は、観光が主体で、ハイキングは2回。4月に老人大学のハイキングクラブがなくなり、寂しさを感じていたところ、旅行中4回のハイキングがあるスイスツァーが目にとまる。まだ行ったことのない紅葉の時期にと考えたが、日程の調整がつかず高山植物の美しい7月に落ち着いた。
 山はお天気次第。運が悪ければ雨や雲に閉じ込められ、1週間山が見えないことも珍しくない。新婚旅行でスイスを訪れた近所の人も、その口。欧米人のように、同じ場所に長期間滞在できるなら晴れる日もあるが、我々のように1週間、10日で何カ所も駆け抜ける旅では、天気に恵まれないと山の楽しさは味わえない。
 ところが私たち夫婦は、これまでの2回、晴れの日が続き、アルプスの3大名峰マッターホルン、ユングフラウ、モンブランが麓から頂上までくっきり見え、あまつさえ、フランスのモンブランを間近かに見るエギーユ・デュ・ミディ展望台からは、遠く60キロ離れたスイスの最高峰モンテローザやマッターホルンまではっきり望めた。居合わせたフランスに住む人が、8回登って初めて見たというくらいの僥倖。それが2回とも完璧に見えたのだから、まさに奇跡。いくらなんでも、そんなに幸運は続くはずがないと、3回目の旅は長らく躊躇していた。
 出発前の6月下旬にヨーロッパは40℃を超える熱波に襲われた。マッターホルンの雪も完全に溶けて、灰色の山に。帰国して1週間もしない7月下旬、再び、40℃を超える日が続く。私たちが訪れていた間は、14日の深夜から15日朝にかけての大雪で、白銀のマッターホルンが再び現れ、7月の平年並みの気候に戻っていた。朝の山の展望台で氷点下、2000mクラスのハイキングコースで15~6℃、麓の町や村で24~5℃。
 そして今回も、4大名峰マッターホルン、ユングフラウ、モンブラン、ベルニナ・アルプスがくっきり見え、エギーユ・デュ・ミディ展望台からはマッターホルンが遠望できた。しかも、中々見ることが出来ない朝焼けのモンブランとマッターホルンを拝めた。
 なおかつ、滅多に経験できない夏の大雪にも遭遇した。5日目の朝、マッターホルンの3089mのゴルナーグラート展望台駅は、前夜からの雨が雪に変わり、5センチの積雪。晴れていれば目の前にマッターホルンの雄姿が見えるのだが、この日は、雲の中。ところが夕方になって晴れ上がり、スネガ展望台や宿泊地ツェルマットの町からマッターホルンの麗姿を心行くまで眺めることができた。前回、スネガ展望台に登った時は雲に隠れていたので、その時の借りが返せた。3回目も、これ以上のタイミングはない絶好の時期に当たり、素晴らしい旅になった。
 スイスの面積は、九州より小さいが、ハイキングコースは地球を一周するより長く、延べ5万kmに及ぶ。スタート地点やゴール地点が登山電車やケーブルカー、ロープウェイと接続し、標識も分かり易く、標高の高いコースでも気軽に安全にハイキングが楽しめる。山、湖、池、氷河、高山植物……変化に富む風景はいくら歩いても飽きることはない。

 

1.ユングフラウ メンリッヘン→クライネシャイデック

 旅の3日目、宿泊地ウエンゲンからロープウェイで一気に1000m登り、標高2230mのメンリッヘンへ。クライネシャイデック2061mまでの約4.4km、標高差169m、1.5時間のコースを2時間10分かけて歩く。

◆山の標識(目的地と所要時間が書かれている)

◆三大名花のアルペンローゼ

 4回のハイキングのうち、3回のガイドは若い日本人女性。夏の間だけスイスに来てガイドをし、他のシーズンは日本で別の仕事をする季節労働者だという。スキーシーズンはもっと賑わうが、冬のガイドにはドイツ語が必須。話せないとスイスでは仕事が出来ない。

 ヨーロッパの人達は高山でも、気軽に家族や友人とハイキングに来る。生まれて数ヶ月の赤ん坊を抱いた人を何人も見かけたし、小さな子供連れの家族にも出逢った。しかし、高山植物にはほとんど関心がなく、景色を見ながらの歩きを楽しむ。歩き専門のヨーロッパの人達に合わせた標準時間が 1.5時間。我々日本人は、高山植物の花を見つけて写真を撮り、歩いて、花を見つけてはまた写真を撮る。これを繰り返すので、2時間10分もかかってしまう。雨が降れば、ハイキングの時間は短くなり、天気が良くなるほど長くなる。

 

目の前に広がるユングフラウ3山に感激

 コースの目玉は、ユングフラウ3山を眺めながらのハイキング。ヨーロッパ3大北壁のひとつアイガー3970mと、メンヒ4099m、ユングフラウ4158mの3山が連なる眺めはまさに圧巻。

◆左からアイガー、メンヒ、ユングフラウ…迫力ある3つの山容が織りなす絶景を満喫。

◆上と下3枚:メンヒ、ユングフラウをバックに

 

前夜の雷雨もすっかり止んで

 この日は、前夜から激しい雷雨が続いた。ハイキングは半ば諦めながら、朝の食事をとったが、ロープウェイに乗る頃にはきれいに晴れ上がっていた。

◆左:アイガー北壁  右:池に映った逆さアイガー

◆ユングフラウ登山鉄道の車窓から見た谷間の村

◆左:クライネシャイデックへの道 中:登山鉄道の線路 右:アレッチ氷河

 

可憐な花々に夢中でシャッターを切り続けた!

 時々、3山は雲に覆われたが、アルペンローゼ、キンポウゲ、スミレ、リンドウ、キンバイソウ、サクラソウ、シラタマソウ、チチコグサ、オウゴンソウ、ハクサンイチゲ、タイム、ハクサンチドリ、キリンソウなど色とりどりの可憐な花々が、次から次に現れ、山の写真、花の写真を撮りながら、一行に遅れないように必死に歩いた。スイスの山で出逢う花570種のうち、70種は日本と共通。風景に何となく親しみを覚えるのも不思議ではないのかもしれない。
 アルプスの三大名花、エーデルワイスは険しい山中に自生しているので、初級ハイカーはお土産屋の鉢植えで見るのみであるが、アルペンローゼはハイキングコースのいたる所にピンク色の花を咲かせ、ブルーのリンドウ、チャボリンドウは道沿いの所々にその姿を見せる。

◆高山植物のスライドショー

 山の眺めや高山植物のかわいい花々、池に映る逆さアイガー。アルプスの山歩きを堪能した2時間。上りはほとんどなく楽なコースだった。
 6年前に購入した3630万画素の重い一眼レフより、2年前に買った軽いスマホの方が綺麗な写真が撮れることがある。望遠や瞬時の写真では一眼レフが優れているが、普通の写真なら、スマホで十分。同じショットをプリントして比べると分かる。デジカメが売れないのも納得。因みに今、高機能スマホは4800万画素のカメラを搭載。6400万画素を開発中という。タブレットの大きな画面は凄い迫力で、びっくりする。

 

2.モンブラン バルム峠頂上→シャラミヨン駅

 旅の4日目、午前中、エギーユ・デュ・ミディ展望台3842mから、西ヨーロッパの最高峰モン ブラン4810mやヨーロッパ3大北壁のひとつグランドジョラス4208m、針峰群、遠くスイス最高峰モンテローザ4634m、マッターホルン4478mなどの大パノラマ眺望を満喫。富士山より高い展望台。軽い高山病にかかり青ざめる人も。

◆朝焼けのモンブラン

◆エギーユ・デュ・ミディ展望台 山頂の頂上テラス

◆左:中央の大きな山の右後方三角の峰がマッターホルン  右:針峰群

◆左:左後方の白い峰がモンブラン山頂  右:中央がヨーロッパ三大北壁の一つグランドジョラス

◆左:ボソン氷河 右:モンブラン山群をバックに

 

息を呑む「天空の花園」

 午後、バス、ロープウェイ、スキーリフトを乗り継いでバルム峠頂上へ。2186m。真っ青な空の元、2人乗りのスキーリフトに乗って、高山植物の咲き乱れる広大な高原、花の海を足下に見ながら涼風に吹かれていると、夢を見ている心地がする。

◆左:中央がモンブラン  右:モンブランを見ながらのハイキングコース

 目の前に、モンブランの丸い、白い姿が見える。ガイドはフランスに住んで20年になる日本人の男性。2.5km、標高差341mでほぼ下りのコースを2時間かけて歩く。マウンテンバイクのコースもあり、いくつものグループが下って行った。
 今回の4つのコースの中で、山や高原、池の雄大な眺め、アルペンローゼなど高山植物の種類の豊富さで一番だった。アルプス連山と見渡す限りのお花畑が織りなす絶景の連続に、何度も立ち止まり、息を呑む。まさに天空の花園。妻もこれまで歩いた中で、ベストワンと感動の面持ち。

◆左:スキーリフトに乗ってバルム峠頂上へ  右:アルペンローゼが咲く山の斜面

 高山植物は一度踏まれると再生するのが難しく、道を外れないように歩く。写真を撮るときも、花を踏まないように神経を使った。下りがきつくて、降りて来た時には脚がパンパンに張っていたが、気持ちのいい疲れ。

◆ハイキングコースと高山植物のスライドショー

 

 

 

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