これなんやろか 第8回 春の草むらに目をこらすと・・・

      2023/07/29

正解は ハキダメギクでした

 小田 紘

(いつものように写真のクリックで、拡大写真を見ることが出来ます。)

 春らんまん,草むらに目をこらすと見たことのない小さな花がたくさん見つかりました。似て非なるものが続々と。

 

 撮影: 2023年4月

 珍しい形の花を見つけました。直径5mm くらいの小さな花です。「ハキダメギク」と判明しました。牧野富太郎博士が大正時代に東京下町の掃き溜めで発見し,このように命名したとのことです。それにしても「掃き溜め菊」とは少々安易な命名で,この花がかわいそうです。大先生に向かって恐れながら「アンタ,そこに愛はないんか」。だがちょっと待てよ,「掃き溜めに鶴」という言葉がある。ひょっとしたら,この花の白く美しい姿に対するリスペクトからこの名前をつけたのかな,とも思いました。ただ,本シリーズ第6回で話題となった「イヌノフグリ」の命名者も牧野富太郎博士だということを知り,さてさて,どんなものか。命名の真意については謎のままです。
 先端が3つにわかれた花びらが独特の雰囲気を醸し出しています。

 

 撮影: 2023年4月

 草むらに直径4~5mm くらいの真っ白な小さい花が咲いていました。調べて見ると「ハコベ」と判明。これがそうだったのか。身近な植物としてしばしば耳にすることはあった名前ですが,ちゃんと実物を見たのは初めてです。こんなに小さな花とは思ってもいませんでした。春の七草にある「ハコベラ」と同じものです。ハコベラはハコベの古い言い方とのこと。万葉集にも詠まれている日本の在来種です。

 花びらは10枚あるように見えますが,植物学的には5枚の花びらからなっており,各花びらに深い切れ込みがあるため10枚に見えるとのことです。確かに,左下の花は5枚の花弁が10枚に分かれつつあるように見えます。

 

 撮影: 2023年3月

 ハコベを撮りまくっているうちに,すぐそばに似て非なる花があることに気がつきました。「オランダミミナグサ」と判明。これは初めて聞く名前です。ハコベに似ていますが,こちらの花びらは5枚からなっていて,各花びらにはっきりした切れ込みがあるのが確認できました。

 名前の由来は,向き合って付いている2枚の葉っぱがネズミの耳に似ているからとか。

 

 撮影: 2023年3月

 キュウリグサは本シリーズの第3回(昨年9月投稿)で紹介しました。その時はたいへん珍しい花を見つけたと思い込んでいて,かなり興奮気味に記述していました。ところが,今の季節,この花は身近にたくさん咲いていることが分かりました。花があまりに小さいため以前は気づかなかっただけです。知らないとは恐ろしいことで,昨年まではまさに「見れども見えず」状態であったというわけです。
 直径がわずか2mm の極微小の花ですが,今では歩きながらでもすぐに見つけることができるようになりました。

 

 撮影: 2023年4月

 この「ツメクサ」(爪草)は「シロツメクサ」とは別物です。細く尖った葉っぱが鳥の爪に似ているのが名前の由来だそうです。ちなみに別名の一つに「タカノツメ」というのがあります。花の直径は4mm くらいのたいへん小さな花です。

 シロツメクサ(白詰草,別名 クローバー)は明治時代に牧草としてヨーロッパから導入されたものですが,それより以前,江戸時代にオランダから輸入されるガラス製品のクッション材としてこの草を乾燥させたものを「詰めた」ことに由来するとのことです。

 

 撮影: 2023年4月

 ツメクサを撮っていると,ツメクサにそっくりの花を見つけました。しかし葉っぱは全然違います。これは「ノミノツヅリ」と判明。綴り(つづり)とは粗末な短衣のことで,蚤の粗末な着物という発想による命名のようです。この花も直径4mm くらいのたいへん小さな花です。

 

 撮影: 2023年4月

 さらに,ノミノツヅリを撮っていると,今度はノミノツヅリのすぐそばによく似た花がありました。似て非なるものの連鎖です。花の直径は2~3mm くらいの超ミニサイズです。何しろ小さいので肉眼で見たときにはどちらも同じように見えたのですが,クローズアップ写真で見ると違いは歴然です。ハナイバナ(葉内花)と判明しました。葉と葉の間に花があるので「葉内花」と名付けられたようです。真っ白い花と淡青色の花が混在していました。

 

 撮影: 2023年4月

 この花も今回の草むら観察で初めて存在に気づきました。キュウリグサに混じって,地面に張り付くように咲いていました。草丈は10 cm程度,花は0.7 cm ×1cmくらいです。美しい青紫色と独特の形(唇形花)が印象的でした。名前は葉っぱが一年中あり(常葉),果実が爆ぜる(はぜる)様子に由来しているとのことです。

 

 撮影: 2023年3月~4月

 春の草むらにはほかにもオオバコ,オニタビラコ,マンテマ,カタバミ,ムラサキカタバミ,カラスノエンドウ,スズメノエンドウ,マツヨイグサ,マツバフウランなど,目をこらさなければ見落としてしまいそうな小さな花がたくさん見られました。積極的に調べなければ名前も分からないままスルーしてしまう花ばかりです。
 折しもNHKの連続テレビ小説「らんまん」の放送開始。

注: 「らんまん」は植物学者・牧野富太郎博士をモデルにしたオリジナルドラマです。

牧野博士がNHK’23年度前期朝ドラ「らんまん」のモデルに!!

 ◎牧野富太郎博士(1862―1957)
明治・大正・昭和にかけて活躍した世界的植物学者。
日本中の野山を歩き次々と新しい種を発見。
研究のため40万枚もの標本を集め、94歳で亡くなるまで
1500種以上の草花に学名を与えた。
※写真は東京都練馬区牧野記念公園ホームページより
拝借しました。

 

 

 

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