王子製紙回顧録 釧路編

      2018/09/02

◆「世界三大夕日」の一つと称される幣舞橋(ぬさまいばし)の夕日

 

製紙業界再編――本州製紙と合併

 

 王子製紙は1996年(平成8年)10月に本州製紙と合併した。当時の社長は合併の意義を、「洋紙業界の有力企業(王子)と板紙業界の有力企業(本州)の合併により、紙の総合メーカーとしての基盤の確立、経営の安定化を目指す」と語っていた。その本州の拠点工場である釧路工場に1997年7月、原材料部長として赴任した。

 合併後1年もしないで、今まで競争相手だった会社の工場に赴任することは、木材チップのなかの異物のようなもので、うまく打ち解ける事が出来るか少し不安があったが、昔、北見や旭川で知り合った本州の山林の仲間もいて、不安が杞憂に終わった。

 

初めての体験――「板紙」製造の合理化に奮闘

 

 私は洋紙の知識しかなく、板紙の製造は初体験であった。板紙とは紙のなかでも厚手の紙で、その紙を何層にも重ねてできるのが段ボールであり、産業用、農業用等に段ボール箱として利用されている。釧路工場には段ボールの加工工場(別会社)も併設されて、農協用のじゃがいも、玉ねぎの箱になる一歩手前の切り込みの入った、カラー印刷された板紙が大量に加工されていた。

◆釧路工場/段ボール原紙

◆チップ集積場

 私の仕事は従来の木材チップの他に、板紙の原料である段ボール古紙を集荷、その段古紙の80%以上は本州からの移入品である。チップや古紙は原料として馴染みがあるが、工場で使用する、化学薬品、紙の仕上がりを美しくする填料(クレイ、カオリン、ラテックス)キャンバス等の抄紙用具、動力用燃料、電気設備(各種モーター)等の物品の購入も対象となった。

 いちいちそれら材料の内容を勉強する余裕もないので、資材課長に任せて、課長には、同じ填料でも沢山のメーカーが製造して、似たようなものがあるが、1円でも安く、品質が安定している製品を各社に提案させて、その中から選んで決めたら良いのではないかと話をした。課長や担当者はメーカーとの取引慣例もあり、簡単ではなかったが、徐々にその方向に向かっていった。

 

北海道経済に打撃を与えた「拓銀」の破綻

 

 1997~98年の経済状況は後に「平成不況」と言われるように、97、98年の経済成長率は2期連続マイナス成長となった。いわゆるバブル崩壊後の大不況である。97年11月には、北海道拓殖銀行が廃業、98年3月には山一証券が自主廃業となる。
 廃業する少し前までの拓銀は、いわゆる都市銀行の一つで、北海道の会社は拓銀と取引している事がステータスと思われていた。取引が始まると拓銀から拓銀株を勧められ、お付き合いで3百万、5百万円と株を所有していた。株価が500円から1円になり株が紙切れになってしまったのである。

 王子製紙は98年度末決算では1949年の三社分割(王子、十条、本州)以来の赤字決算となった。釧路工場も、新聞紙、印刷用紙は良かったが、板紙が需要の減退で赤字となりトータルでも赤字となったと思う。(当時のデータがないので推測)
 1999年~2000年は長かった不況から少しずつ景気が回復し、更に99年7月、佐賀工場から新工場長が赴任、この工場長は、苫小牧の山林部長の時の工場長代理で、伝統ある釧路工場に何のしがらみもなく、より合理的、効率的な工場経営を指導され、我々もその渦中で努力した結果、名実ともに素晴らしい釧路工場に生まれ変わった。

釧路を二分した
王子VS日本製紙のアイスホッケー対抗戦

 

 3年間の釧路での生活を振り返ると色々と想い出が尽きない。まず特徴的な事は釧路の天候である。真夏、内地では30℃を超えるが、釧路は30℃を超えるのは数年に一度である。いつの間にか海霧がたちこめて、真夏なのに肌寒い日がある。お盆を過ぎると朝晩涼しくなってストーブが恋しくなることがある。けれど、秋から冬の期間は良い天気が続いて、雪が少なく寒いけれども苦にならない。

 雪が少ないので、冬期間のスポーツはアイスホッケーが盛んである。日本製紙釧路工場と王子製紙釧路工場の管理者対抗試合は市内を二分するイベントで、釧路のクラブやスナックのママさん達の応援で盛り上がる。
 もしシュートして得点でもしたら、2階の応援席からママさん達の大きな声援と花束がスケート場に飛んでくる。試合終了後は応援のお礼に、王子と日本の管理者が釧路の夜の街を訪問し、夜遅くまで盛り上がる。

◆黄色い声援と花束を独占した頃(希望)の勇姿

 

釧路は海鮮グルメの天国

 

 釧路の名物と言えば、やはり「炉端焼き」だと思う。釧路は日本でも有数の漁港であり獲れる魚の種類も多く、その中でも「ほっけの開き」、「キンキ」、「さんま」はぴか一である。

◆釧路港

◆炉端焼き

 その他に、釧路駅前の和商市場では海鮮丼が有名、麺類では牡蠣そばが美味しいと思う。

◆海鮮丼

◆牡蠣そば

◆和商市場

 主な観光地としては、もちろん釧路湿原、阿寒湖、摩周湖、冬場の鶴居村の鶴見台のタンチョウなども釧路市内から車で30~1時間で行ける所にあり多くの観光客で賑わっている。

◆写真上段左:冬の摩周湖 右:緑のカーペット・釧路湿原 下段左:鶴居村タンチョウヅル 右:阿寒湖の紅葉

 2000年6月、王子製紙から辞令が出た。関連事業管掌役員付 上席主幹 王子木材工業㈱出向という長いものだった。翌日付で王子木材工業㈱社長からの委嘱状には、委嘱業務(取締役北海道支店 支店長代理兼管理部長)分担業務(㈱竹之内林業所社長、坂本陸運㈱社長)とあった。

 

 

 

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