「ミラクル17」――彼の背番号をつけたワードが流行語となり、ネットニュースや
新聞・雑誌のトップを飾った。人々は彼のマウンドに、投球技術を超えた何かを
感じているのだった。
23歳の春、彼の剛速球に異変が起きた。キャンプ中の負傷が原因だった。
その日から、彼の長い苦闘の日々が始まった。
誰もが彼の復活を信じたが、ミラクルは起こらなかった。そしていくつかのシーズンが過ぎ、
今オフに戦力外の通告を受けた彼は、故郷に帰る途中、思い出のバーに立ち寄ったのだった。
ホテル12Fにあるバーラウンジの、静かに流れる曲は彼の孤独をかきたてた。
「《ミラクル17》というカクテルは、いかがですか?本日のスペシャルメニューでございますが・・・」
バーテンダーの声を合図に、ピアノが懐かしい応援歌を演奏し始めた。
振り返ると、いつの間にか満席になった客が立ち上がって、ヒーローを迎えるポーズをした。
見ると、それはかつてのチームメイトたちだった。
中でもひときわ陽気な4番打者が、今夜のサプライズの仕掛け人らしかった。
バーの入り口には、不屈のヒーローから貰った多くのものを、今こそ彼に返したいと
大勢のファンが集まって来た。
「あなたのことは、一生忘れません」 少年チームのファンたちの姿もあった。
彼の目にそれは、勝利のマウンドから幾度となく見た、感激のウェーブのように見えた。
《マンハッタン》
バーボン・ウイスキー2、スイートベルモット1、アンゴスチュラ・ビタース数滴をステア
してカクテルグラスに注ぎ、レッドチェリーを飾る。