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天使がいるバーで 800文字のものがたり 第2話new

   

 

その夜、静かなバーは栄光のスタジアムに変わっていた。

 

彼は甲子園の星と呼ばれた。長身から投げ下ろす速球は誰にも打てなかった。

18歳の秋、彼はプロ野球球団に入団した。プロ野球選手は初めてという、九州の南の島
からやって来た少年に、人々は新生チームの夢を重ねた。

彼が投げるゲームは、なぜか味方の援護に恵まれなかった。
孤独なマウンドで、自軍の反撃を待つ彼の姿はファンの胸を熱くし、次の日の職場や
学校で、彼のフォームやバッターとの息詰まるかけひきが再現された。

 

「ミラクル17」――彼の背番号をつけたワードが流行語となり、ネットニュースや
新聞・雑誌のトップを飾った。人々は彼のマウンドに、投球技術を超えた何かを
感じているのだった。

 

23歳の春、彼の剛速球に異変が起きた。キャンプ中の負傷が原因だった。

その日から、彼の長い苦闘の日々が始まった。
誰もが彼の復活を信じたが、ミラクルは起こらなかった。そしていくつかのシーズンが過ぎ、
今オフに戦力外の通告を受けた彼は、故郷に帰る途中、思い出のバーに立ち寄ったのだった。
ホテル12Fにあるバーラウンジの、静かに流れる曲は彼の孤独をかきたてた。

 

「《ミラクル17》というカクテルは、いかがですか?本日のスペシャルメニューでございますが・・・」

 

バーテンダーの声を合図に、ピアノが懐かしい応援歌を演奏し始めた。
振り返ると、いつの間にか満席になった客が立ち上がって、ヒーローを迎えるポーズをした。
見ると、それはかつてのチームメイトたちだった。
中でもひときわ陽気な4番打者が、今夜のサプライズの仕掛け人らしかった。

バーの入り口には、不屈のヒーローから貰った多くのものを、今こそ彼に返したいと
大勢のファンが集まって来た。

「あなたのことは、一生忘れません」 少年チームのファンたちの姿もあった。

彼の目にそれは、勝利のマウンドから幾度となく見た、感激のウェーブのように見えた。

 

《マンハッタン》

 

 

 

 

バーボン・ウイスキー2、スイートベルモット1、アンゴスチュラ・ビタース数滴をステア
してカクテルグラスに注ぎ、レッドチェリーを飾る。

 

 

 

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