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天使がいるバーで 800文字のものがたり 第2話

      2018/10/21

 

その夜、静かなバーは栄光のスタジアムに変わっていた。

 

彼は甲子園の星と呼ばれた。長身から投げ下ろす速球は誰にも打てなかった。

18歳の秋、彼はプロ野球球団に入団した。プロ野球選手は初めてという、九州の南の島
からやって来た少年に、人々は新生チームの夢を重ねた。

彼が投げるゲームは、なぜか味方の援護に恵まれなかった。
孤独なマウンドで、自軍の反撃を待つ彼の姿はファンの胸を熱くし、次の日の職場や
学校で、彼のフォームやバッターとの息詰まるかけひきが再現された。

 

「ミラクル17」――彼の背番号をつけたワードが流行語となり、ネットニュースや
新聞・雑誌のトップを飾った。人々は彼のマウンドに、投球技術を超えた何かを
感じているのだった。

 

23歳の春、彼の剛速球に異変が起きた。キャンプ中の負傷が原因だった。

その日から、彼の長い苦闘の日々が始まった。
誰もが彼の復活を信じたが、ミラクルは起こらなかった。そしていくつかのシーズンが過ぎ、
今オフに戦力外の通告を受けた彼は、故郷に帰る途中、思い出のバーに立ち寄ったのだった。
ホテル12Fにあるバーラウンジの、静かに流れる曲は彼の孤独をかきたてた。

 

「《ミラクル17》というカクテルは、いかがですか?本日のスペシャルメニューでございますが・・・」

 

バーテンダーの声を合図に、ピアノが懐かしい応援歌を演奏し始めた。
振り返ると、いつの間にか満席になった客が立ち上がって、ヒーローを迎えるポーズをした。
見ると、それはかつてのチームメイトたちだった。
中でもひときわ陽気な4番打者が、今夜のサプライズの仕掛け人らしかった。

バーの入り口には、不屈のヒーローから貰った多くのものを、今こそ彼に返したいと
大勢のファンが集まって来た。

「あなたのことは、一生忘れません」 少年チームのファンたちの姿もあった。

彼の目にそれは、勝利のマウンドから幾度となく見た、感激のウェーブのように見えた。

 

《マンハッタン》

 

 

 

 

バーボン・ウイスキー2、スイートベルモット1、アンゴスチュラ・ビタース数滴をステア
してカクテルグラスに注ぎ、レッドチェリーを飾る。

 

 

 

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