「ナイジェルはこの中の一羽と恋に落ち、求愛を始めた。海藻や枝を集めて巣作りをし、
彼女のためにせっせと餌を運んだり、交尾をしようとする姿も目撃されたそうだ」
「バカな鳥だな、いい加減で気づけよ。翼があるんだから、本物の相手がいる場所へ飛んで行けばいいのに!」
「どんなに尽くしても相手は冷たく、反応さえしてくれない・・・どんなにか切なかったことだろうなぁ~。
それでもナイジェルは他の雌のデコイには見向きもせず、飛び去ることもなく、
3年間彼女のそばを離れなかったらしい」
「・・・」
「そしてナイジェルは・・・」 ここで少し間合いをおき、叔父はおごそかに言った。
「今年の2月、コンクリートの恋人の隣りに横たわり、死んでいるところを発見されたんだ」
「!」
「皮肉なことに、ナイジェルが死んだすぐあとに、この島に3羽のシロカツオドリが飛来した。
でもそれは、ナイジェルが暮らしていた場所とは逆の、島の裏側だったそうだ」
「!!」
「つまり、俺が何を言いたいかというと・・・」
正樹は抑えられない感情に襲われ、叔父の言葉のつづきを聞かずに立ち上がった。
胸がしめつけられるように苦しかった。
それは漠然とした怒りのようでもあり、哀しみのようでもあり、自分でも理解できない初めての感情だった。
今は早く家に帰って、とりあえず母親を抱きしめたい気持ちだった。
《ブルー・ラグーン》