信貴山断食道場の思い出 FINAL
2020/10/21
1965 Nov.8-17
「その時、君は?」【008】 市丸 幸子
痩せたいという止むにやまれぬ思い(笑)から、二十歳の私は断食道場に行き、1日にリンゴ
ジュース2杯という人生初の体験で、12日間で8キロ減量しました。
でも、この体験は脂肪を落としてくれただけでなく、思いがけない気付きを私にもたらしてくれたのです。
断食って何だろう? 道場って何だろう? と考えると、
私にとっては「縁切寺」だったのではないかと思います。
生まれたときから一日も休まず、酷使を続けた胃や腸に安息日を与え、「出すこと♬」
に専念した12日間。腐れ縁の○便をはじめ、溜め込んだ皮下脂肪、毒素や老廃物、ぷよぷよ
のセルライトとは、断食でもしなければ一生縁を切ることはできなかったでしょう。
それともう一つ、
舌の表面についた舌苔(ぜったい)と縁切りできたのも思いがけず嬉しいことでした。
断食をすると、食べ慣れたいつもの味が塩辛く感じたり、甘過ぎると感じたり・・・。
脂っこいものや濃い味のものが欲しくなくなるのは、この舌苔が除かれて、繊細な味の違い
が分かるようになるからなのだそうです。
今「デトックス」がさかんに言われていますが、断食はその究極のかたち。
私がやったのは、その先取りだったかもしれません。
断食道場のもう一つの意味は何かと言えば・・・
それぞれの人が抱えている問題から緊急避難する、「駆け込み寺」ではないかと思います。
体に悪いと分ってはいても、暴飲暴食が止まらない。医師に禁じられても、アルコールや
タバコがやめられない。化粧品かぶれやアレルギー症状がひどい・・・。普通に生活していても、
世の中は体を痛めつけるリスクがいっぱいです。
人間関係のストレスだって大変。特にきついのは、親子・兄弟姉妹など肉親同士の場合。
歯車が一度狂ってしまうと、どこまでも憎み合って歯止めがきかなくなることもあります。
そんな日常から緊急避難して、自分を見つめ直すのに道場はピッタリというわけです。
そんなわけで、西洋医学では治らない難病や、原因が分らない現代病に苦しむ人たち、
アルコール依存症、ニコチン中毒、拒食症・過食症、パニック障害、DVや夫婦の共依存
などいろんな悩みをもつ人たちが、一人では抱えきれない問題を、断食に期待を
かけて集まっていましたね。
◆自宅で断食をという方には、手始めに、前日の夕食から次の日の昼食までの間食事をしない「朝だけ断食」や、週末2日間だけのプチ断食から入るのがおすすめです。ガイドブックなどを読み、自分に合った方法で始めましょう。
見知らぬ人同士が数日間から1か月以上にわたって起居を共にする断食道場には、他にはない不思議な雰囲気があります。それは、人が優しいことです。みんなそれぞれに悩みを抱えているから、他人にも優しくなれるのかも知れません。
その独特の雰囲気は、例えは変かも知れませんが、同じ飛行機に乗り合わせた人たちが
無人島に不時着して、救助が来るまでの10日間を、心細いながら力を合わせ、励まし合い
助け合いながら暮らしているのと似ているかもしれません。
普通ならただの行きずりの人、話をすることもない同士がすぐに打ちとけ、悩みを
打ち明けて励まし合う・・・。
ここでは社長もヒラも、マダムもギャルも、大学教授もフリーターもありません。
みな同じ質素な布団に寝て、朝は早くから読経、呼吸法の勉強、道場の清掃も全員一緒だし、
ヨガや山歩きにもみんなで連れ立って出かけます。
優雅な芦屋マダムと過激な化粧のギャルが一緒に庭掃除をしたり、対人恐怖症ぎみの
青年が大学教授に「樹林気功」のやり方を教えていたり・・・。
そのかたわらでは、お坊さんとオーストラリア人のバックパッカーが、すずめを捕まえる相談(もちろん冗談ですよ)をしていたり、またその横で女性たちが美味しい調理法を
口々に提案したり・・・。(もちろんウソですよ)
こんな組合せ、一般社会ではありえないですよね。
それもすべて、山奥の「道場」という、俗世から隔離された場所だからこそできること。
何か不思議な連帯感と、人に対する優しさが生まれてくるんですよね。
あの12日間に出会った人、道場の方々、皆さんからもらった励ましや親切を、私は一生
忘れないと思います。
そして何よりの収穫は、生まれて自分がここにいることの幸せ、それまで気付かなかった
周囲から受けている愛や幸せを、素直に感じられるようになったこと。
「健康に生きているだけで幸せなんだ」と、しみじみ思えるようになったことですね。
ありがとう信貴山断食道場、必ずまた行きます!
長い間読んでくださって、ありがとうございます。これで私の断食道場レポートは終わりです。この体験記が、少しでも皆さんの笑いを誘ったり、心に響いたりしたのなら幸せです。
=了=
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