中国・江南紀行〔1〕

      2021/05/23

◆寒山寺

 

 

 

 中国には2000年前後に5回訪れている。目覚ましい経済発展を遂げてはいたが世界第2位の経済大国になった今と違い、まだまだ発展途上の国で、地方に行くと昭和20年代の日本の農村を思わせる風景が色濃く残り、純朴な人々が暮らしていた。少年時代にタイムスリップしたような懐かしさを感じて、また訪れたいと思わせる魅力あふれる国だった。

 4千年の歴史を誇り、長く日本の手本となってきた国の数多くの歴史遺産もまた抗しがたい引力となっていた。欧米と違い手軽に行けるのも魅力だった。
 北京や万里の長城に2度、広州、西安の兵馬俑、江南、上海、桂林にそれぞれ1度、いずれも満足のいく旅だった。妻は、仕切りのない、並んでしゃがむトイレにもすぐ慣れた。

 

6度目の中国は、古都の風格をたたえる江南地方へ

 6度目に訪れたのは、2011年の3月9日。中国のGDPが日本を抜いて世界2位になった翌年のこと。江南地方の水郷烏鎮(うちん)、上海、蘇州、無錫、杭州5都市を5日間で巡るコース。国内旅行に行く感覚で、夕方4時23分関西空港を飛び立つ。

 日本の航空会社は機内食が美味しい。白ワインもフランスのシャルドネ。2時間16分の飛行で5時39分上海着。時差は1時間。日本より1時間遅い。よく晴れて、9℃。8時半には蘇州の29階建てのデラックスクラスのホテルに入る。NHKテレビが受信できて、ニュースウオッチ9を見る。出入国の手続きを除けば、国内旅行とまるで変わらない。17階の部屋からの眺めは素晴らしい。

天下一秀麗と謳われる太湖の風景

 旅の2日目、3月10日。部屋の暖房が効いていなくて寒い。7時朝食。思いの外美味しい。8時、バスでホテルを出発し、無錫へ向かう。きれいに晴れている。他のグループの人がパスポートを紛失して、ひと騒ぎ。再発行には最低1週間かかるという。

 40分もすると左手に五大湖のひとつ、中国で3番目に大きな太湖が見えて来る。2428㎢、琵琶湖の3.6倍の面積を誇り、景観の美しさで知られる淡水湖。50km先の対岸は見えない。周辺は、中国有数の豊かさを誇る穀倉、淡水魚地帯。8時50分には無錫市内に入る。長江デルタに位置し、上海から西に128km。多数の日本企業が進出し、改革開放以来、急激に発展している。

◆太湖遊覧クルーズ  大小48の島と72の峰々がおりなす絵画のような絶景を堪能。

三千年の歴史の光芒に身を浸す「三国志」ゆかりの地

 太湖の畔の無錫は、かつて錫鉱石の産出地だったが、漢代初期頃には採掘し尽くし「錫のない街」、「無錫」と呼ばれるようになった。三国志の呉の発祥の地で、3000年の深い歴史を持ち、「江南の名城」と呼ばれている。

 9時10分、三国城へ。1994年にオープンしたテーマパーク。テレビの大河ドラマ「三国志」の撮影に使われたセットで、三国志ファンには憧れの場所。昔の軍船を模した船で太湖遊覧クルーズへ。水上からの城の眺めを楽しむ。湖上を吹く風は冷たい。

◆「三国城」 中国中央テレビが、大河歴史ドラマ「三国志」撮影のために建設した大規模なオープンセット。現在は、三国志をテーマにしたテーマパークになっている。隣りには、「水滸伝」のオープンセットだった同様のテーマパーク「水滸城」もある。

◆虎牢関の戦い:横スライドショー5枚

 呂布と関羽が戦う虎牢関の戦いを再現したショーは迫力満点で、三国志の時代に引きこまれる。特に騎馬兵による迫真の戦闘シーンには思わず手に汗を握る。

 20元(260円)で乗馬を楽しむ人や当時の武将の衣装を着て記念撮影する人もいる。

 ピンク色の梅の花が満開。無錫料理の昼食をとる。甘みを重んじた料理で、蟹小籠包やワンタンがある。無錫は水産物が豊富で、太湖三白(銀魚〔シラウオ〕、白蝦〔シロエビ〕、白魚)が有名。

◆梅が満開

 淡水真珠の専門店へ。真珠クリームの売り込みが盛ん。しかし、8個1万円から10個1万円に値下げしても買う人はいない。
 無錫には、この他にも霊山大仏、水滸城、南禅寺、錫恵公園、崇安寺など見所が多い。

「蘇州夜曲」に歌われた美しい水郷風景にタイムスリップ

 12時45分出発、水の都として名高い東洋のベネツィア蘇州へ。上海に隣接し、古くから絹織物で発展した。現在も江蘇州の経済的中心の地。渡辺はま子の「蘇州夜曲」でも知られる。

 1時40分には唐代に建立された臨済宗の名刹「寒山寺」へ。

◆蘇州、臨済宗の名刹・寒山寺

◆蘇州、臨済宗の名刹・寒山寺:横スライドショー7枚、縦写真1枚

 寒山寺は、唐代の詩人張継の七言絶句「月落ち烏啼きて、霜天に満つ」で始まる漢詩「楓橋夜泊」に登場することで知られる。都落ちした旅人が、蘇州西郊の楓江に架けられた楓橋の辺りで船中に泊まった際、旅愁のために眠れぬまま寒山寺の鐘の音を聴いた様子を詠った詩。

 境内には明代に「三絶」と呼ばれた蘇州の文人「文徴明」筆の「楓橋夜泊」の詩を刻んだ石碑がある。その拓本は寒山寺参詣の土産として人気が高い。また、「寒山拾得」の故事で名高い。唐代の脱俗的な詩僧「寒山」と「拾得」。宋代以後、彼らの生き方に憧れる禅僧や文人によって格好の画題にされてきた。

◆左:文徴明筆「楓橋夜泊」の詩を刻んだ石碑 右:詩僧、寒山拾得

 1時間ほど見学。フリータイムに5元(65円)で鐘を撞く。10年前に訪れたのを思い出す。いつだったかNHKの大晦日の番組「ゆく年来る年」でこの鐘を中継していた。寒山寺の除夜の鐘の音を聴くと10歳若返ると言われている。

◆家族の健康を願って鐘を撞く。

◆上4枚:寒山寺鐘撞堂からの眺め

 3時前、シルク工場へ。春や秋に使う薄手のシルク1750gの布団の質の良さに驚く。シルクのカバー付きで1枚980元(12800円)という。妻がすっかり気に入ってしまい、娘の分も合わせて3枚購入。因みに10年後の今も愛用している。

 4時前に、世界遺産に登録された蘇州古典園林のひとつ「留園」へ。明代に創園された庭園。清の時代の1875~1909年に改築されてから留園と呼ばれるようになった。東園、中園、西園、北園の4つに分けられ、総面積は2万㎡。庭園や邸、国宝の石などを巡る。

◆世界遺産の蘇州古典園林「留園」:横スライドショー10枚

 5時レストランへ。唐城大酒店は日本の団体客がほとんど。蘇州料理の夕食。500mlの青島ビールが30元(390円)。

 自転車はほとんどが電動になり、音もなく走って来るので恐い。中国が豊かになっているのを実感する。運河のナイトクルーズに行く人も何人かいたが、6時過ぎホテルに戻る。

 7時のNHKニュースが見られた。「ためしてガッテン」や『ブラタモリ』が流れている。旅の疲れもありゆっくり休めるのは嬉しい。

中国・江南紀行〔2〕へ続く

 

 

 

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