万葉集から演歌まで 好きな詩・短歌・俳句・歌詞を教えて下さい。  ( 006・007 万葉集 斎藤利久 )

      2021/05/23

斎藤 利久

 万葉集を読むようになったのは、大学入学後のこと。学徒動員の多くの大学生が万葉集を携えていたことによる。長年読んできた岩波文庫の「万葉集上・下」の二冊は、すっかり赤茶けてしまった。現在の同書は五分冊となり、4516首の全首に注釈があり、容易に理解できる。

 好きな歌はくり返し読んでいるが、それまで読み飛ばしていた歌からの「発見」も少なくない。新年号「令和」の出典となった巻第五の「梅花の歌三十二首」は、くり返し読んでいる歌だ。
 大伴旅人、山上憶良、山部赤人などのいわゆる「筑紫歌壇の歌」は、私たちになじみ深い地名が多く出ており、御一読をすすめたい。

 さて、この企画は好きな歌や句を一つ紹介するということなので、天智天皇の子であり、桓武天皇の祖父である志貴皇子の歌を一首。 

■作者:志貴皇子 万葉集 巻1・51

■時代背景 壬申の乱で大海人皇子が勝利し、飛鳥浄御原宮(あすかのきよみはらのみや)で即位したのち、都は藤原京へと遷された。この歌は都が遷されたのち、志貴皇子がかつての都だった明日香を訪れて詠んだもの。采女(うねめ)は国造・県主などの地方豪族から朝廷に貢進された子女で、下級女官として天皇に奉仕した。

■現代語訳・解説 飛鳥浄御原宮はその跡だけを残して藤原の宮へ遷ってしまった。かつて采女たちのあでやかな袖を翻していた明日香風は、今はただ空しく吹きぬけるだけである。明日香が今も都であったらなあ、と幻を見るように往時を偲んでいる歌である。この歌を詠んだ季節は不明だが、明日香風は春の風がふさわしいと思う。

 明日香・甘橿岡で明日香風に吹かれたのは九年前のこと。次の奈良への旅は、半月ほどかけての万葉の旅としたい。

 ちなみに、志貴皇子の有名な一首。

■作者:志貴皇子 万葉集 巻8・1418
■現代語訳 岩の上に流れおち、水しぶきをあげる滝のほとりを見ると、ようやく早蕨が小さな芽を出す春になったんだなあ。

 

 

 

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