「寺山修司が好きなの?」
デスクに置いた「書を捨てよ、町へ出よう」の本を見つけ、A君が話しかけてきたのは私がまだ初々しいコピーライター見習いだったころ。それが二人の出会いだった。そのころ勤めていた広告企画制作会社に、中途で入社してきた彼は、寺山修司が主宰する「天井桟敷」の元劇団員という不思議な経歴の持ち主だった。
詩人、歌人、劇作家、映画監督など多岐にわたる分野で、既成の価値観にとらわれない奇才ぶりを発揮した寺山修司。正直なことを言うと、スキャンダラスでアナーキー、暗い情念という言葉が似合いそうな寺山修司の作品を、ほとんど理解できない私だったが、A君の口から語られる寺山修司の詩は美しい調べをもって心を満たしてくれた。