ベルギー点描⑤ ブリュッセル後編
2020/10/21
3度目のブリュッセルには、ゲントを訪れた2009年5月12日(ベルギー点描②)の夕方5時過ぎに到着。ブリュッセル中央駅から歩いて5分のグランプラスから少し街中に入ったアルルカン・ホテルへ。入り組んだ細い道で入口が小さく、一度は通り過ぎてしまったほど。5月も半ばというのに部屋には暖房が入り暑いくらい。部屋は残念ながらグランプラスと反対側。
夕食は、2回目の訪問のとき行けなかったイロ・サクレ地区のレストランへ。観光客目当てのぼったくりの店がいくつもある。安全を期してどのガイドブックにも載っているベルギー料理の店「シェ・レオン」へ。1893年創業の外観は貫禄のある建物だが、店内は親しみやすい家族的な雰囲気。ベルギーに来て病みつきになったムール貝の白ワイン蒸しを注文。中身が大きく、ぽってりと厚みがあり、こんなに1人で食べられるだろうかというくらいに、バケツのような深鍋いっぱいに盛られて出て来る。
まずは指でつまんだ貝からフォークで身を取り出すが、2個目からはカラになった最初の貝殻を使って身をつまんで食べる。この食べ方でムール貝がまた一層美味しくなる。ポテトフライとのセットはベルギービールに合っていくらでも食べられる。「ブリュッセルに来たなぁ~!」と実感する。妻は、小エビ、キノコ、ムール貝のパスタ。繁盛店で込み合っているが、店員が写真を撮ってくれる。ビール2杯。チップ込みで55ユーロ(7600円)。
13日は終日「専用車で行くアルデンヌの旅」を楽しむ(ベルギー点描③)
14日9時半過ぎにホテル出発。グランプラスへ。建物群が朝日を受けて輝いている。日本のパックツアーの一団がせわしなく歩き回り、写真を撮り、足早に次の目的地(小便小僧)に向かって行く。
◆朝日に輝くグランプラスの建物:横)スライドショー4枚、縦)写真1枚
◈聖ミッシェル・エ・ギュデュル大聖堂
近くの教会で一休みして、聖ミッシェル・エ・ギュデュル大聖堂へ。思いの外の広大さと荘厳さに圧倒される。ミサが行われるのか祭壇には花が生けられている。
13~15世紀に建築されたゴシック様式の大聖堂。正面に対称に並ぶ2つの塔は高さ69m。ブリュッセルでは珍しいフランボワイヤン・ゴシック様式。王室との繋がりが深く、歴代国王の結婚式や戴冠式が行われてきた。
王室と日本の皇室との親交が深く、フィリップ王子とマチルド妃の結婚式が行われた際には、天皇・皇后両陛下(現上皇・上皇后)が参列された。何枚かの写真が掲示されている。16世紀のステンドグラスが残り、木製の説教台は17世紀末のもの。アダムとイブの彫刻が彫られている。中世以来のブラバンド侯国支配者の多くがここに眠っている。
灰色の外壁は古び、長い歴史を物語る。小高い丘の上に建ち、縦の線を強調した構成になっているので、実際の高さ以上に高く聳え立って見える。
◆聖ミッシェル・エ・ギュデュル大聖堂の内部:横)スライドショー16枚
◈王立モネ劇場
11時半、王立モネ劇場へ。1819年に建てられた新古典主義の美しいオペラハウス。15世紀にはブラバン公の造幣所だったところから、フランス語のモネ(貨幣)と命名された。1830年8月に上演されたオペラで、愛国と自由を歌い上げるシーンが観客を触発し、これが導火線になって、ベルギーはオランダから独立した。残念ながら観劇以外の内部見学はできない。
4度目のブリュッセルは、5月17日。前日にオランダに来た下の娘と3人でベルギー1泊2日の小旅行をした際、アントワープを巡った後の夕方のこと。4時半、ル・メリディアン・ブリュッセル・ホテルに入り、5時50分、聖ミッシェル・エ・ギュデュル大聖堂へ。6時に閉まる寸前に入場。「カカオとチョコレート博物館」を見学して、7時、イロ・サクレ地区のレストラン「シェ・レオン」へ。前回と同じムール貝の白ワイン蒸し。妻と娘はパスタ。娘とチェリービールで乾杯。
◆カカオとチョコレート博物館:横)スライドショー4枚
翌18日朝、ホテルの部屋で日本のテレビを見ていたら、大阪、兵庫に新型インフルエンザの感染が拡大し、学校が1週間の休校に入ったと伝えていた。
この日はブルージュ観光に行き、夕方6時にブリュッセルに戻る。グランプラスもこれが見納めかとゆっくり眺める。娘はお土産にノイハウスのチョコレートをたくさん買い込んでいる。
そんなレストランの一つ「マネケン」で夕食。グランプラスから徒歩1分、60数年続くベルギー料理の店。日本にあるワッフルの店とは無関係だが、ここのワッフルも美味しいと定評がある。娘に魚のワーテルゾーイを勧める。思っていた以上に美味しかったようで、満足気。トラピストビール「オルヴァル」もまた美味しい。
ビールはワインと同様に食事との相性を考えて選ぶ。料理酒に使うこともあり、「兎のビール煮」は兎肉とリンゴと香味野菜をグーズという自然発酵のビールで柔らかくじっくり煮込む。ハヤシルー風の甘めのソースで癖になる美味しさ。ワイン煮込みとはまた異なる味わい深い一皿だ。
◆左:レストラン「マネケン」の前で 右上:店内は落ち着いた雰囲気 右下:トラピストビール「オルヴァル」
小便小僧のお土産を買いに行った娘が戻って来る頃、雨になる。娘も名残惜しそうに、夜の闇に包まれつつあるグランプラスを眺めている。
◆グランプラス周辺の建物:横)スライドショー7枚
5度目のブリュセルはそれから3年後。2012年8月16日の朝、オランダのゴーダでチーズ市を見た(オランダ点描・2)後、1時半過ぎブリュッセル中央駅に到着。緩やかな曲線を描く外観が印象的な駅舎。アールヌーボーの巨匠ヴィクトル・オルタが設計し、弟子のマキシム・ブランクが完成させた。ギャルリー・サン・チュベールのようにアールヌーボー様式の建築物はブリュッセルのあちこちに観ることができる。中央駅は北駅に比べて規模は小さいが、乗降客数はベルギー最多。そのままル・メリディアン・ブリュッセル・ホテルにチェックイン。
5回目のオランダ・ベルギー旅行の主目的は、「フラワーカーペット」を観ること。
グランプラスの石畳の広場全体に、ベルギー・ベゴニアなどの色とりどりの花の絨毯が敷き詰められる花の祭典。1平方メートルあたり300の花を使用し、全体では50万本以上。100人のスタッフが1つ1つ並べる。2年に1度、偶数年の8月半ばに4日間に亘って開かれる。毎回テーマが変わり、デザインが更新され、観光客や地元の人々の目を楽しませている。これまでいずれもタイミングが合わずに観ることが出来ずにいた。
2012年は第18回目のフラワーカーペット。テーマはアフリカで、花の色も地味な茶褐色系のものが多く使用され、もうひとつ華やかさに欠ける。テーマがアフリカとは知らずに来てしまった。第19回か第20回のテーマは日本だったように記憶する。
◆フラワーカーペット:横)スライドショー11枚、縦)写真1枚
一休みして、3時前ホテルを出る。ワッフルを頬張りながらグランプラスに向かう。広場にはたくさんの人。ずっと日を浴び、水が不足してきたせいか花は少ししおれて見える。ベルギー・ベゴニア自体はそんなに綺麗な花ではない。ゆっくり広場を一周して見物。5ユーロ(510円)払って市庁舎の2階へ。
上から見るとデザインの全容が見渡せ、美しさが際立つ。横から眺めるポジションで、写真1枚におさまらない。縦に見られるブラバン公の館の3~4階あたりかがベストポジションか。余裕をもって2泊3日の日程で観に来たフラワーカーペットだが、色々な角度からひととおり眺めてしまうともういいか…という感じになる。宿泊するので、あとはライトアップされたカーペットや朝一番のカーペットもゆっくり観て、心行くまで堪能することにする。
◆市庁舎の2階テラスから観たフラワーカーペット:横)スライドショー4枚、縦)スライドショー2枚
スーパーマーケットやチョコレートのノイハウスを覗いて、小便小僧(ベルギー点描④)へ。周辺は人で溢れていた。日本人の姿もたくさん見かける。中国人の団体がいくつも来ている。
夕食は、「マネケン」。2人とも鶏のワーテルゾーイ。直訳すると水炊き。鶏肉をクリームソースで柔らかく煮込んだスープ感覚のシチュー。アルコール度数4.5%のチェリービール(Kriek mort subite)のラージと、8%の修道院系稀少ビールRamme Brondeを飲む。
現地の人は皆、外のテラス席で食べるが、慣れない外では落ち着かないので屋内を選ぶ。すいている。チップ込みで55ユーロ(5600円)。妻は家の模様が入ったショルダーバッグが気に入って買う。76ユーロ(7700円)。ライトアップされたフラワーカーペットを一巡りして鑑賞。しっとり落ち着いた感じで、それなりに美しい。9時過ぎホテルに戻る。
◆左:鶏のワーテルゾーイの夕食と修道院系稀少ビールRamee 右:レストラン「マネケン」の店内
◆ライトアップされたフラワーカーペット:横)スライドショー3枚、縦)写真1枚
フラワーカーペットの時期なのでホテルの予約が取りにくいかと思ったが、そんなに混んでいる様子はない。外では、夜遅くまでロックやジャズが大音響で演奏されていたが、疲れで睡眠を妨げられることはなかった。
17日の朝9時過ぎホテルを出発。グランプラスを一周して、フラワーカーペットを観る。
たっぷり水を与えられ、弱った花は入れ替えられて美しく蘇っている。
ブリュッセル中央駅へ。ローカル(国内線)の切符売り場には思いがけず長い列。20分も待たされる。メッヘレン観光へ(ベルギー点描②)。
午後2時半ホテルの部屋に帰着。コーヒータイムの後、聖ミッシェル・エ・ギュデュル大聖堂へ。ステンドグラスや内部装飾など、訪れる度にその素晴らしさに驚かされる。
◆聖ミッシェル・エ・ギュデュル大聖堂とステンドグラス:横)スライドショー3枚、縦) スライドショー3枚
夕食はイロ・サクレ地区のレストラン「シェ・レオン」へ。ムール貝の白ワイン蒸しとレオンのビールに疲れも吹き飛ぶ。妻は魚のワーテルゾーイ。若い日本人のカップルが入って来る。新婚旅行か? すべて女性のリードで進んでゆく。妻を夜のフラワーカーペットに誘ったが、疲れていてパスするという。
◆左:シェ・レオンでの夕食 右:ムール貝の白ワイン蒸し
18日の朝8時前、ホテルのレストランにはエンヤの曲が流れる。落ち着いた気分で朝食。
日本人に人気のホテル。この朝も8人ほどの日本人の団体がいて、聞こえて来るのは日本語ばかり。
食後の散歩の前に中央駅へ。昨朝のこともあり、先にオランダのアムステルダム行きの切符を買う。2人で85ユーロ(8600円)。国際列車の売り場はすいていて待たずに買えたが、ローカル(国内線)の売り場は昨日にも増して長い列。30分はかかりそう。
グランプラスに回り最後にもう一度フラワーカーペットを観て、ノイハウスでクッキーをお土産に買う。
◆朝のフラワーカーペット:横)スライドショー6枚
◆ギャルリー・サン・チュベールとブラバン公の館:横)スライドショー4枚
◆ギルドハウス:横)スライドショー3枚、縦)スライドショー8枚
ホテルに戻って、チェックアウト。中央駅の国内線の切符売り場の列は更に長くなり、1時間はかかりそうな感じ。アムステルダムまでは急行で2時間50分ほど。満席で若い人が席を譲ってくれて助かったが、陽の当たる側で、まぶしく暑かった。アムステルダムのこの日の最高気温は34.9℃。
ベルギーが美食の国と称されるのは豊かな食材に加えて、人々の食に傾ける情熱も大きな要因になっている。世間話に天気の話をするのと同じくらい頻繁に、食べ物が話題にのぼる。電車に乗っていても、「昨日の夜は何を食べたの?」とか「週末はどんな料理を作ろうかな」といった会話が聞こえてくる。
各国の外交官たちも口々に「ブリュッセル駐在中の食生活が一番充実していた」という。しかし、食に関しては東京も負けていない。和食はもとより世界のあらゆる国の料理が、現地で食べるより美味しく食べられると、この上ない高い評価を受けているのだ。