ベルギー点描③ ワロン地方・アルデンヌ地方
2020/10/21
日本で申し込んだ「専用車で行くアルデンヌの旅」は、4~5人のグループになるはずだったが、キャンセルが相次ぎ参加者は私たち夫婦のみの貸し切りになってしまった。当然参加費はアップ。
2009年5月13日朝7時過ぎ、ブリュッセルのホテル。9階のレストランからはグランプラスの市庁舎が目の前に見え、素晴らしい眺め。煙突掃除の職人が早くも仕事を始めている。遠くには補修工事を終えた最高裁判所の巨大なドームが金色に輝いている。コンチネンタルの朝食は、ハムやチーズ、卵、フルーツ、ヨーグルトまでついて味も申し分ない。大満足の食事を楽しむ。
◆左:9Fのレストランから眺めるグランプラスの市庁舎 右上:レストランで朝食 右下:グランプラスの朝市
グランプラスの朝市を覗いて、ブリュッセル中央駅前のホテルへ。ツァーのガイド兼運転手ピエール氏とベンツのワンボックスカーが待っていた。
◈凱旋門
予定より15分早く8時45分出発。ロワイヤル広場から王宮、ブリュッセル公園を経て9時にはサンカントネール公園に到着。1880年に開催された独立50周年記念の博覧会の会場。1905年に建てられた凱旋門がちょうどオープンしたところ。エレベーターで昇る。ブリュセル市街が一望できる。
◆左: 凱旋門 右:凱旋門の屋上
◈王立軍事歴史博物館
凱旋門の左にある王立軍事歴史博物館へ。ナポレオンの時代から第二次世界大戦までの軍服、武器、資料が展示されている。スピットファイヤーやモスキートなどの初期の軍用機からヘリまであって中々見応えがある。
◆王立軍事歴史博物館:スライドショー(5枚)
ベルギー南東部ワロン地方の3つの州、ナミュール、リュクサンブール、リエージュは、アルデンヌ地方と呼ばれる。幾筋もの川が流れ、緑深い起伏に富む地形に古城が点在する。
9時半、出発。森や湖、池、小川、広大な畑、見るものすべてがのどかで美しく、快適なドライブとなる。第二次世界大戦末期、ナチス・ドイツ軍と連合国軍との間で凄惨な戦が繰り広げられた同じ場所とは到底思えない。高速道路を利用し10時17分、ナミュールに着く。昨日降った大雨でムーズ川は流量が多く、土色。
「ムーズ川の真珠」と讃えられる美しい町ナミュールは、アルデンヌ地方の入り口にあたり、電車だとブリュッセルから急行で1時間の所にある。カエサルによるローマ帝国の侵略から第二次世界大戦で占領されるまで、戦略上の重要拠点とされてきた。
◆左:ムーズ川とナミュール市街 右:ナミュール市街
10時半シタデル(城砦)に登る。17世紀に築城され、ルイ14世やオラニエ公ウィレムが所有していたこともある。ヨーロッパでも最も重要な城砦の一つ。フランスに源を発するムーズ川とサンブル川の合流する高台にあり、眼下に聖オーバン大聖堂や聖ルー教会、市庁舎などを望むことができる。
丘の上に立つ古城ホテル、「シャトー・ドゥ・ナミュール」に1泊したかったが予約がとれなかった。朝は寒かったが、暑くなってきた。
◆左: シタデル(城砦) 右上:ナミュールのシタデルとムーズ川 右下:ナミュール市街
11時半、垂直に切り立った断崖の下、ムーズ川沿いに広がる絵のような町ディナンへ。小高い丘の上に築かれたシタデル(城砦)を中心とした小さな町。シタデルは11世紀にムーズ川流域を監視する目的で造られた。その後改修、拡張され、1703年フランス軍に破壊されたが、19世紀オランダ軍により再建された。
◆雨で濁ったムーズ川と崖下のディナンの街、崖の上のシタデル
15世紀の半ばにはブルゴーニュ公国のシャルル突進公による住民の大虐殺があり、2つの世界大戦では多くの犠牲者を出すなど、数々の悲惨な歴史を刻んできた。銅細工が有名。古い街をゆっくり散策したかったが、車を止める場所がなく、市街地へ。
◆ディナン市街:スライドショー(4枚)
◈ノートルダム教会
12世紀にロマネスク様式で建てられたノートルダム教会を見学。68mのタマネギ型の塔が特徴の教会。1227年に背後の岩壁が崩れて一部が破壊され、ゴシック様式で造り直された。その後1995年にも岩の落下で一部が壊れている。
◆タマネギ型の塔があるノートルダム教会をバックに記念撮影
◆ノートルダム教会内部:横スライドショー(6枚)と縦写真(1枚)
サクソフォンを発明したアドルフ・サックスは1824年にこの町で生まれた。4年に1度サクソフォンの国際コンクールが開かれる。通りにはサックスのオブジェが飾られている。
◆サクソフォンの生みの親、アドルフ・サックスの銅像と並んでパチリ
名物の堅焼きビスケット(クック・ド・ディナン)を孫たちへのお土産に買う。しばらく歩いて、ムーズ川沿いのレストランへ。鱒(妻はサーモン)、サラダの昼食。なかなか美味しく、満腹。ビール、水と合わせてチップ込みで33ユーロ(4500円)。ピエール氏も誘ったが、弁当を持参しているという。
◆ムーズ川沿いのレストラン(3枚)と昼食のマス料理(1枚):スライドショー
1時半出発。黄色い菜の花畑が一面に広がるアルデンヌの細い道を進む。ピエール氏は、日本に12年住み、最後は京都の宇治だったという。奥さんは日本人で、小学生の娘が3人。日本語はもうひとつ。ガイドの聞き役は妻に任せ、写真の撮影に専念する。
◆菜の花畑が広がるアルデンヌの道
丘陵地帯を縫うように走り、1時50分小高い丘の上、5つの尖塔を持つ五角形のヴェーヴ城へ。日本人が漠然とイメージするいかにも中世ヨーロッパの古城。7世紀に起源を持ち、1410年頃現在の姿に改築された。中には入らず、外から見ただけ。
アルデンヌ地方に点在する多くの古城は、建造当初は防御要塞として造られた。現在は、シャトー・ホテルやレストラン、博物館として親しまれている。
◆ヴェーヴ城
◈セル村
2時7分にセル村へ。濃紫のライラックが美しい小さなのどかな村を散策。修道院の建物を利用した保育園、水曜日はお昼で終業。園児の姿は見ることができなかった。
◆ライラックが美しいセル村:スライドショー(9枚)
◆修道院の建物を利用したセル村の保育園
◆左:セル村の教会 右:ガイドのピエール氏と話す妻
3時半、世界一小さな町、デュルビュイへ。アルデンヌの奥深く、丘陵を流れるウルト川支流の渓谷に抱かれるように人口500人の町がある。1331年には町として公認されている。標高400m、夏は涼しく多くのリゾート客が訪れる。芸術家が多く住み、フランス料理などグルメの町としても知られる。
石造りの可愛らしい家々、石畳の小道、ウルセル伯の居城や小さな教会、箱庭のようにまとまった町はまるでおとぎ話に出てくるような趣がある。ところが町の中心フォワール広場の周りはカフェやレストランばかり。鄙びたところがなくて少しガッカリ。ウルト川も濁っている。記念に木のマグネットを買い、30分のフリータイムを楽しむ。
◆デュルビュイの町とフォワール広場:スライドショー(5枚)
◆ウルセル伯の居城を背に
◆左:アルデンヌの村の教会 右:伯爵邸
4時出発。ピエール氏が3年前から改築中の、小さなホテルを見せてもらう。かつて牛小屋だったという。日本と違い大工や職人が約束どおりに来なくて、完成の見込みが立たないと嘆く。開業したらファミリーで泊まりに来てほしいと売り込んでくる。
◆池で遊ぶアヒルやカナダガン 右上のアヒルは、カメラを向けると何故か敵愾心あらわに威嚇してきた
4時半、伯爵邸や教会、3つの池……いかにもベルギーといった素晴らしい景色を楽しむ。
カナダガンがたくさん餌をついばんでいる。アヒルにカメラを向けると何故かギャーギャー騒ぐ。銃でも向けられたと思ったのか? 4時半過ぎ帰途につく。疲れてうとうとする。
6時半ブリュッセル帰着。グランプラスに面した行きつけのレストランへ。娘や孫たちと来た時は賑わっていたが、この日は日本人の夫婦と他に1組の客でがらんとしていた。小旅行を無事終え、7時、白ビールとアップルジュースで乾杯。魚のワーテルゾーイの夕食。妻はムール貝のグラタン。実に美味しく、満足。チップ込みで40ユーロ(5500円)。カトリーヌ教会を覗いて、グランプラスを散策。小雨が降ってきて、ホテルに戻る。
◆ブリュッセルのレストランで夕食
◆夜8時過ぎのブリュッセルはまだ明るい
◆左上: カトリーヌ教会 左下: 宿泊ホテル付近 右:お土産に買ったパウエル・クワックのグラス
ビールの王国ベルギー。1人当たりのビール生産高が世界一、1人当たりの消費量で隣国ドイツを凌ぐ。寒冷なベルギーにはフランスのようにブドウが育たず、ワインの代わりにビールを作ろうとしたらしい。約110の醸造元がある。1500種類ものバラエティに富んだ製法のビールがあり、さまざまなテイストを楽しむことができる。
ビールの銘柄毎にオリジナルグラスがある。修道院のビールは聖杯型というように、ビールの特性に合わせて計算されたフォルムは、同じ形が2つとない。アルコール度数が低いビールにはロングタンブラー、キリッと冷やして飲むビールには手の体温を伝えないよう厚手のタンブラー型グラス、15℃前後で飲むビールには口の広いグラスなど、ビールの味を最大限引き立てる形がそれぞれ決まっていて、奥が深い。
◆聖杯型グラス
ビールの種類は大きく分けて8種類ある。
●ランビック ブリュッセル周辺でのみ製造される自然発酵ビール。発酵香と強い酸味がある。
●トラピスト トラピスト会修道院で造られている手造りビール。シメイ、オルヴァル、ロシュフォール、ウエストマル、ウエストヴレテレンの5つがあり、濃厚で長持ちする。
●アベイ ベネディクト会やブレモントレ会系修道院の名を掲げているが、製造しているのは醸造会社。ブロンズ色でアルコール度数が強いものが多い。
●ホワイト 琥珀色が白濁した色合いで、小麦を主原料として造られ、香辛料が加えられている場合が多い。軽くさっぱりしていてのど越しもさわやか。
●スペシャル メッヘレンのグデン・カルロスなど各地方、各村に根差したビール。個性的なビールで100種類以上あるともいわれる。
●ピルス 明るい黄金色で、ホップの香りが強く、味にキレがあり、のど越しが軽い。ラガービールの一種で、日本人にもなじみやすい。起源はチェコのビルセンで、19世紀には造られていた。
●その他 東フランダース州の、ワインのように香り高いブラウンビール。ワロン地方産のきめ細かい泡立ちのセゾンビール、ホップの風味で口当たりのソフトなベルギーエールなど、バラエティに富む。
アルコール度数は5~9%が多いが、トラピストのロシュフォールには11%のものもある。飲むときにクワックと音がするパウエル・クワックのグラスが珍しく、記念に買った。缶ビールは1缶100円前後と安く、荷物になるがお土産にもいい。
ワインもそうだが、ビールもやはり生産地で飲むのが一番美味しい。ベルギー、オランダ、ドイツ、チェコなど、それぞれの気候風土に合って実に美味しい。
― ベルギー点描④に続く ―