スイスアルプス フラワーハイキング(下)

      2019/11/07

 

 

3.マッターホルン フィンデルバッハ→ツェルマット

 

マッターホルンは雲の中

 旅の5日目、朝一番に、ツェルマットの町から登山電車に乗って9km、40分、標高差1485mを上った。時々、車窓の雲の切れ目からマッターホルンが姿を現し、期待が膨らむ。ところがゴルナーグラート展望台3131mに着く頃にはすっかり雲に覆われ、雪が降っていた。マッターホルンは全く見えない。

 当初、予定していたのは、ゴルナーグラート展望台から、登山電車でひと駅下ったローテンボーデン2815mを出発し、リッフェルベルク2582mまで2.7km、標高差232mを下る1時間30分のコース。途中、リッフェル湖に映る逆さマッターホルンが見られる。一帯は積雪で危険なため、他のコースに変更になる。20年前、ところどころ雪が残るこの道を歩いて、逆さマッターホルンも見ている。それでももう一度見たかった……。

 選ばれたのは、フィンデルバッハ1770mからカラ松、スイス松(五葉松)の林を抜けて、ツェルマットの町1620mまで標高差150mを下る2km、1時間15分のコース。
雪のない麓の林間を抜け、ツェルマットの郊外を歩く。変化に富み、望外の素晴らしいハイキングになった。

◆左:林間を抜けるハイキングコース  右上:ツェルマット郊外  右下:フィンデルバッハからツェルマットへの標識

 林間でも、ホタルブクロ、シロマキソウ、レースフラワー、ベンケイソウ、ナデシコなどたくさんの高山植物が咲いている。趣のある古い木造の小屋が点在し、町中に入ると、花に埋もれるように飾られた民家や、ネズミが侵入するのを防ぐため、柱と床の間に大きな平らな石を挟んだネズミ返しの倉庫も所々に見られる。

◆左:高山植物  右:ツェルマット郊外 ネズミ返しが施された小屋

雲が晴れマッターホルンが優雅な姿を現した!

 夕方、雲が晴れて急遽出かけたスネガ展望台では、幸運にもライゼー湖に映る逆さマッターホルンが見えた。少し離れた位置からマッターホルンの優雅な全容を見ることができる人気の展望台。

◆左:スネガ展望台から望むマッターホルン  右:ライゼー湖に映る逆さマッターホルン

◆朝焼けのマッターホルンは神々しいまでの美しさ

◆左:チーズ料理ラクレット  右:ツェルマットの地ビール

◆左:ローヌ氷河からアンデルマットへの道  右上:ローヌ氷河 右下:ローヌ氷河洞 

◆左:アンデルマットからクールへの道  右上:アンデルマットの町  右下:アンデルマットのレストラン

◆サンモリッツでチーズフォンデュの夕食

◆暮れなずむサンモリッツ湖

 

4.ベルニナアルプス ムルテル→フォルクラス→ルレイ

 

山好きには堪らない起伏にとんだコース

 旅の7日目、ホテルの前から出ているロープウェイを乗り継ぎ、合計15分ほどで標高3303mのコルバッチ展望台へ。

 3000m級の山脈に守られ、ベルニナ・アルプスの主峰ピッツ・ベルニナ4049mが目の前に聳えている。この日もよく晴れて、眺めは抜群。空の明るいブルー、神秘的な湖のどこまでも深い紺色の水、白銀の峰々、そして緑の高山植物に色とりどりの花々……山好きには夢のような世界が広がっている。

 ローププウェイで、中間駅ムルテル2699mまで降りて、ハイキングに出発。5kmを往復する標高差93m、2時間のコース。急な上り下りがあるゴツゴツした岩の道で、けっこうしんどい。2日前の大雪は、ここベルニナ・アルプスには20センチの積雪をもたらした。融け残った雪が道を塞ぎ、安全を期して迂回する。

◆標高差93m、往復5kmの道を2時間かけて歩く

◆山上の神秘的な湖

◆ピッツ・ベルニナ

◆ベルニナ山群

◆ベルニナ山群と湖を背景に

色とりどりの花を愛で、多国籍の人が行きかう

 サクラソウ、春リンドウ、ダイコン草、ユキノシタ、ワスレナグサ、イワカガミダマシ、赤いキンポウゲなど、みな小さい花だが、綺麗で見飽きることはない。このコースにも80歳を過ぎたような人や幼い子供、父親に抱かれた赤ん坊など老若問わず多くの人が訪れていた。「ハロー」や「グーテンモルゲン」などの声を交わしてすれ違って行く。日差しが強く、気付くとかなり日焼けしている。赤ん坊は大丈夫か、気にかかる。

 4回のハイキング、距離は、2.2kmから5kmと長くはなかったが、スイスを歩いたという満足感に浸ることができた。下りが多く、太ももやふくらはぎがパンパンに張り、足の甲がかなりむくんだ状態になった。毎日、寝るのが11時半過ぎ、起きるのは5時という日が続いて、体の芯から疲れた。疲れが抜け、平常に戻るまで10日くらいかかった。

車窓の景色を楽しんだ列車の旅

 ハイキングの他は、首都ベルンとフルカ峠のローヌ氷河、ハイジの村の観光、氷河特急とベルニナ特急の列車の旅を楽しんだ。

◆左:ベルニナ特急  中:ベル二ナ線駅舎  右:ベルニナ線ループ橋

◆上3枚:ベルニナ特急の車窓風景

GDP世界第2位の豊かな国

 かつてスイスは、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、リヒテンシュタインに囲まれた山ばかりで何の産業も魅力もない国だった。輸出できるものと言えば、傭兵くらいで「血の輸出」と言われた。忠誠心が高く、勇敢で最後まで逃げずに戦うスイス兵の需要は高い。いくつもの国に雇われ、スイス兵同士で戦う悲惨な例も発生している。

 イタリアのバチカン市国でも、他国の傭兵がすべて逃げ去った中、スイス兵だけが最後まで戦い多くの戦死者を出すことがあった。それ以来スイス兵に対するローマ法王の信頼は絶大で、何百年もの間スイス兵だけを雇っている。今でもバチカン市国に行くと、オレンジとブルーの縦縞の制服を着たスイス兵の姿を見ることが出来る。

 スイスは、百数十年前、アイガーの岩盤をくりぬき、ユングフラウの直下まで登山鉄道を開通させ、観光立国を果たした。全国に鉄道網を張り巡らせ、夏はハイキングに、冬はスキーにと多くの観光客を集め、一躍脚光を浴びるようになった。

 今では、観光業以外にも、銀行、保険の金融業、時計や光学器械などの精密機械、電力、ノバルティスなどで知られる化学薬品工業などで世界に冠たるものがある。1人当たりGDPで世界第2位、日本の2倍を超える豊かな国になった。国連のいくつかの機関がジュネーブに本部を置き、国際オリンピック委員会の本部もローザンヌにある。

 人件費が高いスイスは物価が高いうえ、16年前に行った時は、1スイスフランが67円だったのが、今回は113円、70パーセントも円安になっている。20年前、記念に小さな木彫りの人形を3万円で買ったが、今では5万円以上することになる。

 スイスは白ワインが美味しいが、生産量が少なく、国内消費量もまかなえない。レストランでもイタリア産のワインが出てくる。旅の最後の晩餐のとき、スイスの白ワインと指定した。やはり美味しかった。100㎖8フラン、日本円で900円。フランがかなり残っていたので、2回おかわりを楽しんだ。

 スイス滞在中、寿禄会インスタグラムに8回に亘ってスマホで撮った写真208枚を投稿している。合わせて見ていただくと、旅の様子がより分かっていただけると思う。コラムの広場の写真はすべて一眼レフカメラによるもの。

 

 

 

 - コラムの広場