カメラとともに Vol.10

      2019/05/01

 

田の神(たのかん)さぁー 今回は南九州に点在する石像の話です。

 

 「田の神さあー(たのかんさあー)」は豊作を願って祭られた石像で、南九州一帯の田んぼのあぜ道などに数多く残っています。「田の神」信仰は全国的に見られますが、石に刻んだ神像を祭る風習は、薩摩、大隅、小林、えびの、都城など南九州地域(鹿児島県のほぼ全域と宮崎県の一部)にだけ見られる独特の文化です。18世紀の初めに始まったといわれています。

 「◯◯さぁー」というのは鹿児島弁で「◯◯さん」または「◯◯さま」という意味のようです。そしてこの「さぁー」には暖かい親しみの感情が含まれているように思います。ですから「田の神さぁー」は、田んぼの神さまに対して敬意と親しみをこめた呼び方だと云えるでしょう。

 作られた時代と地域により様々な様式がありますが、基本的には頭に笠(シキ)をかぶり、手にシャモジ(メシゲ)と茶碗をもったものが一般的です。そのほか、鍬(くわ)やスリコギ、宝珠などをもっているものもあります。また、子孫繁栄の願いも込められているらしく、背後から見るとリアルに男性のシンボル状をしているものが多く見うけられます。

 形の上では仏像型、僧型、旅僧型、神像型、神職型(神官型)、農民型、夫婦像型など様々な様式があります。さらに、田の神さあーにまつわる多くの風習にも興味深いものがあります。これらについては小野重朗氏、寺師三千夫氏、青山幹雄氏、八木幸夫氏らをはじめとした地元の研究者による多数の文献や資料があります。私はほんの一部を斜め読みしただけですが、たいへん奥が深いことに驚きました。

 

 私のイメージにぴったりの田の神さあー像です。基本的な特徴であるメシゲ(飯杓)と茶碗を持った典型的なもので、様式としては僧型立像というタイプだと思います。鹿児島県西部のいちき串木野市をドライブ中に偶然見つけました。制作年代は不詳です。

 

 これも典型的な僧型立像ですが、風化がやや進んでいるようです。現在は鹿児島県歴史資料センター黎明館の庭に置かれています。制作地や年代は不詳。

 

鹿児島市(旧日置郡)郡山町茄子田の田の神

 左手に持っているのはスリコギでしょうか。宝暦3年(1753年)作で、現在は黎明館の庭に設置されています(松田龍哲氏による模刻)。

 

鹿児島県南さつま市金峰町浦之名の田の神

 右手に鍬(くわ)をもっています。あぜ道に立って田んぼ全体を見守りながら豊作を祈っているのでしょう。左手にはメシゲ(飯杓)を持っているようです。鍬持ち僧型立像という様式だそうです。寛政12年(1800年)作という銘があります。

 

鹿児島県姶良市加治木町日木山上の田の神(模刻、黎明館の庭)

 いかにもひょうきん者といった感じです。ところが、なんとこの像は田の神舞(たのかんめ)を舞っている神職の像だそうです。恐れ多いことです。袖がタスキでたくし上げられ、左手をシキにあてがっていて、庶民的な目鼻立ちの笑顔が巧みに表わされています。田の神舞神職像という様式に分類されます。

 

鹿児島県姶良市姶良町平松触田の田の神(模刻、黎明館の庭)

 ノリノリの陽気な姿ですが,この像も田の神舞を舞っている神職の像です。これも田の神舞神職像という様式です。

 

薩摩川内市の山間部、藺牟田池に近い田んぼの道路脇で見かけた小さな像

 かわいい顔つきが印象的でした。茶碗にあふれんばかりの山盛り飯には豊かさへの強い願いが込められているのかも知れません。製作年代は不明です。

 

 背後から見ると、ほとんどはこんな形をしています。超リアルなものはあえて避けました。

 

タイトルに使用した田の神さあー(僧型立像)

 制作年代は不詳。かなり古いもののようで、鹿児島市内にある荒田八幡宮の境内に安置されています。

 

雄川の滝(おがわのたき、鹿児島県肝属郡錦江町)こちらはオマケです。

 昨年のNHK大河ドラマ「西郷どん」のオープニングに使われて有名になりました。

 

●撮影した地区

 

 

 

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