オランダ点描⑥ アムステルダム後編

      2020/02/14

◆レンブラント「夜警」

 

 

美術館・博物館めぐりに便利な割引チケット

 オランダは、面積当たりのミュージアム数で世界一を誇る。人口70万人の首都アムステルダムにも数多くの美術館、博物館がある。中でも近接する国立博物館と国立ゴッホ美術館はその白眉といえる。収蔵品は質量ともに優れ、1日で両館回ったときは消化不良を起こしたほどである。ともに日本語のイヤホンガイドがある。他には、主なもので市立近代美術館、エルミタージュ美術館の別館、レンブラントの家などがある。

 17世紀、海洋貿易で富を得た市民が、王侯貴族や教会に代わって絵の購入者となり、自分の家に飾って楽しむようになる。それまでの宗教画に代わって、レンブラント、フェルメール、ライスダール、ミーリス、フランス・ハルス、ヤン・ステーンなどが描く当時の市民の身近な生活を描いた風俗画が主流となる。

 2008年6月初めてオランダを訪れた時、アムステルダムにある美術館、博物館の入場
と、トラム、バスの乗車が48時間フリーになるアイアムステルカードを購入した。43ユーロ。1ユーロが172円だったので、7400円。時間と体力の許す限り利用した。2012年8月には、オランダ国内の400以上ある美術館、博物館の入場が1年間フリーになるミュージアム・イヤーリー・カールトを買った。50ユーロ。この時のレートは101円で、5050円とずい分割安感があった。各地の美術館、博物館を巡り巡って入館料はトータル100ユーロを超えた。オランダを離れる前日、娘一家が夏休みでアムステルダムに来て、無記名式のカールトを引き継ぐ。娘夫婦も1人100ユーロを超え、合わせて2万円分使ったことになる。

◆写真左:アムステルダム市内を走るトラム 右上:クルーズ船 右下:運河

 満員のトラムに乗ると、オランダ人の大きさと私の小ささを痛感する。巨人の谷間に埋もれて息苦しい。男性の平均身長が184㎝、女性でも170㎝。男性では190㎝を超える人が珍しくない。世界でも有数の巨人国。一説に、背の高い男性が子たくさんで、自然淘汰が進んだ結果だという。

 

◈ アムステルダム国立美術館

 2012年8月19日のお昼前、滞在していたホテル・デル・ヨーロッパからウインドショッピングをしながらゆっくり歩いて30分。アムステルダム国立美術館に着く。

◆アムステルダム国立美術館の南側には「I amsterdam」の文字のオブジェが建っている。

◆アムステルダム国立美術館外観

 アムステルダム国立美術館は、アムステルダム中央駅と同じくペトルス・カイパースの設計。外観は中央駅と見間違うほどよく似ている。純粋に美術館のみの目的で建てられたヨーロッパ最初の建物で、その美しさには定評がある。2003年から改装に入り、訪れた時はまだ工事が続いていた。

◆アムステルダム中央駅とは外観デザインがそっくり。

◆美術館内部

 日陰に入ると涼しい。3回目で展示室の勝手も分かっている。1885年に開館した国内最大規模の美術館。オランダ絵画を系統的に展示しており、コレクションは5000点にも及ぶ。中でもオランダ絵画の黄金期に活躍したレンブラント(1606~1669)の市民の集団肖像画「夜警」、「布地組合の見本監査官たち」やフェルメール(1632~1675)の「牛乳を注ぐ女」、「手紙を読む青衣の女」、「小路」、「手紙を読む女と召使」が有名。フランス・ハルスやヤン・ステーンなどの作品も見逃せない。

 

◎レンブラント

◆夜警(バニング・コック隊長率いる火縄銃組合の人々)(1642)

◆左:悲嘆にくれる預言者 エレミア(1630) 中:自画像(1628~29) 右:マリア・トリップの肖像

◆左:布地組合の見本監査官たち  右:自画像

 

◎フェルメール

◆左から:小路、手紙を読む青衣の女、牛乳を注ぐ女、手紙を読む女と召使

 

◎その他の作品

◆ヤン・ステーン「陽気な家族」

◆集団肖像画

 

◈ 国立ゴッホ美術館

8月12日夕方近く、駅前からトラムに乗ってミュージアム広場にある国立ゴッホ美術館へ。日曜日でたくさんの人、人、人。日本人もたくさん来ている。前回、イヤホンガイドを聞きながらじっくり観て回ったら2時間以上かかったので、今回はガイドなしで観る。

◆国立ゴッホ美術館

 国立ゴッホ美術館は1890年以来、弟テオの遺族によって管理されていたゴッホの作品をもとに、1973年にオランダ政府が開館した美術館。展示方法が工夫され、吹き抜け構造の明るいギャラリーを巡るのは、ゴッホファンでなくても楽しめる。ゴッホだけでも油絵200点、素描550点と充実している。油絵の他にもスケッチや版画、ゴーギャン、ロートレックといったゴッホに影響を与えた画家たちの絵画や素描が展示されている。写真は撮影できない。1999年には、本館の東側に黒川紀章設計による新館が誕生した。

 時代ごとの代表作としてはオランダ時代の「馬鈴薯を食べる人々」、パリ時代の「浮世絵の模写」、アルル時代の「黄色い家(道)」、サンレミ時代の「花咲くアーモンド」、オーヴェル・シュル・オワーズ時代の「カラスの群れ飛ぶ麦畑」が挙げられる。

 初期のオランダ時代の作品は、全体的に暗い色調で描かれており、重苦しい雰囲気に包まれている。パリ時代は、出会った多くの印象派の画家たちの影響で、作風は明るく鮮明な色彩へと移行していく。南仏アルル時代は、明るい太陽の元で色彩はより強くなり、彼の才能が開花する。サンレミ時代は、ゴーギャンとの諍いで耳を切り落とし、精神病院に入院。色調は幾分和らいでいく。オーヴェル・シュル・オワーズ時代は、南仏を離れ、不安感を表すようなタッチの作品を多く描いた。ここで拳銃自殺を図り37歳で生涯を閉じる。

 レンブラントの死からおよそ200年後に生まれたゴッホは、レンブラントの影響を受けて光と影を追求。黄色と茶色を中心に強烈なタッチで描いた「ひまわり」など、多数の作品を残す。死後認められ、後期印象派の巨匠として、その後の絵画の発展に大きな影響を与えた。なお、「ひまわり」は全部で7点(現存するのは6点)描かれているが、そのうち1点はバブルの時代、安田火災が50億円で購入。現在、新宿の東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館に収蔵されている。

 街で、走るビール屋台を時々見かける。10人乗りくらいの自転車を自分たちでこぎ、走る。流れる街の景色を眺めながら会話とビールを楽しむ。陽気にはしゃぐ彼らは、いかにも楽しそう。他人事ながらペダルをこぎながら飲むのは心臓に悪いのではないかと、心配してしまう。私なら落ち着いてゆっくり飲む方がいい。

◆アムステルダム市内を走るビール屋台

 

◈ エルミタージュ美術館・アムステルダム別館

 8月11日午後、中央駅前からトラムに乗って、運河沿いにあるエルミタージュ美術館の別館へ。2009年6月にオープン。17世紀に建てられた養老院施設をリノベーションした。展示作品は、常設のものをほとんど持たず、ロシアのサンクトペテルブルクにある本館から貸し出しを受けて、年数回、特別企画展の形で展示している。訪れた時は、マネ、モネ、シスラーなどの素晴らしい作品が並んでいた。作品数が少なく、ゆっくり2回観て回る。

 

◈ ホテル・デル・ヨーロッパ

 ムント広場の対岸に運河を挟んで立つアムステルダムを代表するホテル。赤レンガのヴィクトリア調の建物も運河に突き出たカフェも、アムステルダムの風景の一部になっている。スタッフのフレンドリーで気の利いた対応が何とも言えない。フロント、エレベーター、廊下、客室、どこかしこにもロマンティックでエレガンスな雰囲気が漂う。

◆ホテル・デル・ヨーロッパ

◆ホテル・デル・ヨーロッパの内部インテリア

 シックにまとまったインテリアや調度品が素晴らしい。夕暮れの運河を滑る光の船が行き交う。オーナーのハイネケンが何度にもわたるリノベーションの末に築き上げた傑作。アメリカのAAHSから五つ星ダイヤモンド賞を受賞している。旅の思い出に2泊して、ゆったり過ごし、トップレベルのホテルライフを楽しんだ。

◆ホテル・デル・ヨーロッパのロビー

◆運河を眺めるレストランで朝食

◆レストランからの眺め

 

◈ パーク・プラザ・ヴィクトリア・ホテル

 アムステルダム中央駅前の、広場を挟んだ向かい側にあるクラシックなホテル。駅前なので、電車移動にも、市内観光の拠点としても便利。食事も美味しいし、アムステルダム一番のお気に入りのホテルである。

◆写真上段左: パーク・プラザ・ヴィクトリア・ホテル  上段右:レストランでの朝食 下段3枚:ホテルロビー

 

円相場によって旅のグレードが変わる

 最初にオランダに行った2008年6月、1ユーロは172円だった。娘が文科省特別研究員となった夫の研究留学で、オランダに渡ったのは同年の3月。給与制度は円建て。円安でかなり厳しい生活を強いられたという。2年後に帰国。その2年後、2012年8月の5回目の訪蘭時には1ユーロ101円。70%の円高。僅かな間に大きく変動したものである。この時は5つ星ホテルの宿泊料やレストランも手ごろな感じがして、今思えばずい分豪華な旅ができた。円相場や燃油サーチャージによって海外旅行の費用は大きく変わってくる。

 ― ⑦に続く ― 

◆運河のステージの歌姫たち

◆バッグ・ミュージアム:中世ヨーロッパから現代までのハンドバッグ、ポーチ、財布、旅行鞄など4,000点を収蔵。

◆ファン・ローン・ミュージアム:17世紀、オランダ東インド会社の創始者の一人として、巨万の富を築いたファン・ローン家のカナルハウスをミュージアムとして公開している。

◆左:コンセルト・へボウ(アムステルダムが誇る音楽の殿堂) 右:アムステルダム大学(旧東インド会社)

 

 

 

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