真言宗室生寺派大本山室生寺は、奈良県宇陀市室生にある。近鉄室生口大野駅からバスで15分。
奥深い山と渓谷に囲まれた室生の地は、古くから神々の坐ます聖地と仰がれていた。奈良時代の末期、皇太子山部親王(後の桓武天皇)の病気平癒の祈願が、興福寺の高僧はじめ五人の高徳な僧によって行われ卓効があったことから、勅命によって創建されたのが室生寺である。
以来、山林修行の道場として、また法相・真言・天台など各宗兼学の寺院として独特の仏教文化を形成した。平安前期を中心とする数多くの優れた仏教美術を継承する。
厳しく女人を禁制してきた高野山に対し、女人の済度をもはかり、女性の参詣を許したことから「女人高野」として親しまれている。
室生寺の魅力は、四季折々に移ろう伽藍の佇まいの美しさにある。石楠花の咲く新緑の頃も素晴らしいが、訪れた11月末の紅葉の盛りの時期もまた格別。
早春の梅のほころびに始まり、山桜の老樹が深い緑に匂い立つ春。新緑の頃には石楠花が咲き競う。夏の緑陰には天然記念物の暖地性羊歯が生い茂る。秋には楓の紅葉、銀杏の黄葉が深山の緑に錦を織る。霜が静かに山に降りる冬には、朱色の柱が淡雪の白銀に映える。
高さ16m、屋外に立つものとしては最小の五重塔(国宝)は、平安初期の建立。室生山中最古の建築。人気が絶え、ひっそり佇むその姿は幽玄の世界。人をとらえて離さない。しばし、見入る。薄暮となり明かりが灯った金堂(国宝)の内陣に、ご本尊薬師如来立像(平安時代・国宝)が遠望できる。望遠レンズでそのお姿を捉える。内陣内は撮影禁止。
室生寺の建築物は、兵火や落雷、火災に遭うこともなく、創建当時の姿を今に伝えている。まさに奇跡。そのほとんどが国宝、重文に指定されている。他に例を見ない稀有の存在である。
拝観終了時間が迫り、満足感に浸りながら最後から石段を足早に下る。