「複雑さに備える」より考察するロシア・ウクライナ戦争
2024/12/12
◆2024年3月7日 スウェーデンはNATOに加盟した。
前回に続き、ロシアとNATO加盟諸国との間で緊迫を深める情勢の考察です。今回は、スウェーデン政府が国民に配布した「戦争対応マニュアル」の背景について、より公平に理解するため、国際政治学者・髙橋慶多氏の論文「ウクライナ侵攻に至るロシアの対NATO戦略観の変遷について」を考察してみたいと思います。以下その内容を抜粋したものです。
2022年2月24日、ウクライナ侵攻開始に際して、プーチン大統領はロシアの正当性を強く主張した。これに対してストルテンべルグNATO事務総長は、「すべての責任はロシアにあり、NATOが提供した対話の道も閉ざした。NATOは世界最強の軍事同盟として、これからも平和のために行動する」とロシアを痛烈に批判しつつ、NATOの存在意義を改めて強調した。
ロシアのウクライナ侵攻は、我々にとっては合理性を著しく欠いた行動として映る。しかし、このような見方は西洋的価値観によるものであり、 むしろロシアはその独自のリアリズムに基づき、一貫した行動を取ってきたとの見方もできる。ロシアの非合理極まりない行動は、多極化世界における自らの極としての地位がNATOに脅かされているという世界観に基づいている。
■私の考え(1)
NATO事務総長の「すべての責任はロシアにあり、NATOが提供した対話の道も閉ざした」という主張は採用できません。このような見方は、あくまでも西洋的価値観によるものです。事物を公正に観察するにはまず、西洋的価値観から離れないといけません。
高橋氏論文要旨
問題は、こうしたロシアの世界観・思想が、我々の中で理解困難なイデオロギーとして扱われ、注目すべき対象外に置かれたまま、ウクライナ侵攻という惨事を防止できなかったことにあろう。
ウクライナ侵攻に関して、ハーバード大学のウォルト教授は、NATOにロシアの立場を理解し、これに適切に対応する「戦略的共感」が欠如していたことが、ロシアを蛮行に走らせた原因の1つだと述べている。さらに東アジア研究所のキムは、NATOはロシアに対する抑止に失敗したものと指摘している。
■私の考え(2)
高橋氏の指摘、すなわち「問題は、ロシアの世界観・思想が、我々の中で理解困難なイデオロギーとして扱われ、注目すべき対象外に置かれたまま、ウクライナ侵攻という惨事を防止できなかったことにある」という分析を支持します。NATOによるロシア囲い込みは陰湿、巧妙、継続的でありすぎます。
高橋氏論文要旨
ロシアのウクライナ侵攻は国際法に違反する明白な侵略行為であり、決して正当化できるものではない。ウクライナは多大な犠牲を払いながらも、主権を守るため徹底抗戦を繰り広げている。この前提と現実を踏まえた上で、今後のロシアへの対応を分析する一助として、本稿ではウクライナ侵攻に至った過程に関して、あえてロシア側の視点に立ち、対NATO戦略観という切口からアプローチを試みた。
■私の考え(3)
ロシアのウクライナ侵攻は国際法に違反する明白な侵略行為であるのは間違いありません。ウクライナは多大な犠牲を払いながらも、主権を守るため徹底抗戦を繰り広げています。ここにロシア・ウクライナ戦争の悲劇があります。
プーチンは自分の言う事を聞くイエスマンだけに長く囲まれ、ウクライナ国民の愛国心が見えませんでした。戦争には正義はありません。相手を戦力という物理的力でねじ伏せる戦いです。
あえてロシア側の視点に立ち、対NATO戦略観という切口から解決へのアプローチを試みた、髙橋慶多氏の論文に喝采を送ります。